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アドバイザリーパネル・インタビュー: 杉山文野

2日間で44万人が視聴した「TRP2020 #おうちでプライド」共同代表・杉山文野さんと考える、オンラインでの戦い方

  • 杉山文野(すぎやま・ふみの)さん

杉山文野(すぎやま・ふみの)さん
株式会社ニューキャンバス/ 東京レインボープライド共同代表。
フェンシング元女子日本代表。トランスジェンダー。2年間のバックパッカー生活で世界約50カ国+南極を巡り、現地で様々な社会問題と向き合う。日本最大のLGBTプライドパレードを主催する特定非営利活動法人 東京レインボープライド共同代表理事。渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務める。

2日間で44万人が視聴した「TRP2020オンライン #おうちでプライド」の舞台裏

事務局:昨年3月に行なったアドバイザリーパネルミーティングの際、東京レインボープライド2020の中止を発表したことを共有していただきました。その後の展開を教えていただけますか?

杉山さん(以下、敬称略):2020年3月の半ばに中止を発表しましたが、本当に苦しい決断で、メンバーみんながぷつっと糸が切れたようになってしまいました。「何かやろうよ」という声は上がっていたのですが、どうしても代々木の会場から頭が離れず、オフラインの可能性を捨てきれなくて。4月7日に緊急事態宣言が出たことにより、ある意味「オフラインは無理だ」と吹っ切れて、オンラインでの開催に的を絞ることができました。

そこから2週間ほどで「TRP2020オンライン #おうちでプライド」として、「オンラインパレード」「オンライントークLive」の内容を詰めていきました。オンラインパレードは、2020年のテーマとして掲げていた『Your happiness is my happiness 〜あなたの幸せは、私の幸せ〜』に沿って、レインボーの写真とメッセージをSNSにシェアしてもらうというものです。トークLiveは乙武さんやりゅうちぇるさん、水原希子さんなど数々の豪華メンバーに出演していただき、2日間で44万人に視聴していただきました。突貫工事で進めたわりには、良い反響だったのかなと思います。

オンラインにして良かったのが、いままでアプローチできなかった層に届けられたこと。地方や海外に住んでいる方、入院中の方、会場に行く勇気が出ないという方から、「オンラインになって初めて参加できました」というポジティブな声をいただきました。オンラインにこれだけ需要があったんだ、と気づくきっかけになりましたね。

事務局:オンラインでイベントをしてみて、大変だったことはありますか?

杉山:オフラインでトークイベントをするときは、お互いに何となく目配せをしたり空気を掴んだりして、「次はこの人が喋るな」「そろそろ次の話題に行こう」と伝わるんですが、オンラインだとそれが難しいんですよね。トークに使うパソコンのほかに、もう一台パソコンやスマホを用意して、喋りながら出演者やスタッフとやりとりしたり、SNSに寄せられるコメントを確認したりしていました。それはすごく大変で、2日間で燃え尽きましたね(笑)。

台本がないところが、オンラインの魅力

事務局:東京レインボープライド以降も、活動はオンラインに絞っていたのでしょうか。

杉山:はい。先が見えない中で、いままでやってきた「可視化」「場所づくり」「課題解決」を止めてはいけないと、YouTubeチャンネルを開設しました。いろいろな番組を企画して配信し、当たったり当たらなかったりしながら試行錯誤を続けているところです。

事務局:オンライン配信にあたって、どんな工夫をされていますか?

杉山:ターゲットは常に意識しています。1回ですべての人に届けようとすると、のぺっとした誰にも刺さらないものになってしまうので、「今回は若い子に向けて」「今回は当事者ではない人に届けよう」と、番組ごとにターゲットを絞っていますね。

ゆるさやエンタメ感も大事にしています。「すなっくニューレインボー」と名付けて、ブルボンヌさんをママに、ミラクルひかりさん、勝間和代さんをお迎えした回はすごくバズりました。長々とした動画はウケないので、話すスピードも少し早めにして、テンポ良く進めるようにしています。

これまでオフラインでイベントを開催するときって、完璧に準備して完璧にやることを目指していたと思うんです。でも、オンラインって台本がないところが楽しかったりするじゃないですか。僕たちも最初オンラインで番組をつくるときに、「とは言え事前に打ち合わせをして、ある程度落とし所を考えておかないとだろう」と思って準備したんですよ。でも、そうすると予定調和になってしまって、オンラインで観たときに全然おもしろくなくて。

「台本なしでいきなり録って、おもしろいところだけをカットしてつなぐ」のがオンラインの最善手なんだと気づき、目からウロコでした。ミラクルひかるさんの回もそうやってつくったものです。オフラインでイベントをするときとは根本的にマインドセットを変えることが大事なのかなと思っています。

事務局:逆に、オンラインになったことで困った点はありますか?

杉山:取り残される人がいないように意識して番組づくりをしていますし、LGBTQだからということもあるのでしょうか、「オンラインの方が知人にバレるリスクが少なくて良い」という声も多く、それほどデメリットは感じていません。

ただ、運営側のモチベーションをキープすることは課題ですね。ミーティングのために顔を合わせて、どうでもいい雑談をして、帰りにごはんを食べに行ったりする。そうしたちょっとしたコミュニケーションが案外大事なんですよね。僕らは一年中ずっと辛い準備期間を経験して、パレードの2日間で「この一年やってきてよかった」と達成感を味わうんです。オンラインだとそうした達成感や解放感を感じづらい部分があり、それが2年続くので、少し心配しています。

事務局:今年の東京レインボープライドはどのように開催する予定ですか?

杉山:ずっとオンラインかオフラインか悩んできましたが、オンラインに一本化することになりました。4月24日・25日開催で、5月5日までをプライドウィークに設定しています。今年は視聴者参加型にしようと考えていて、いま練っているところなので、楽しみにしていてください。

  • オンラインヒアリングでの杉山さんの様子

悩んでいる過程も含めて発信し、等身大の姿を見せていくといいんじゃないか

事務局:True Colors Festivalでは2020年、40名以上のアーティストによるオリジナルミュージックビデオ『STAND BY ME』の制作と配信、ヒップホップをテーマにしたトークイベント『THIS IS HIP HOP!』、多様性とインクルージョンをテーマにしたオンライン映画祭『True Colors Film Festival』を実施しました。これに関して、何かご意見やご感想があればお願いします。

杉山:『STAND BY ME』は面白いなと思いました。『THIS IS HIP HOP!』はタイトルから「ヒップホップバトルをするのかな?」と思ったのですが、トークだけだったので少し肩透かしな印象でした。大事な内容ですが、もう少しエンタメ要素があったほうが広い層に興味を持ってもらえたかなと思います。

YouTubeの再生回数も全体的に少ないですね。これだけの人が関わって、せっかくいいものができているのに、再生回数が伸びていないのはもったいない。オンラインで広めるためには、フォロワーの多い方に拡散をお願いしたり、出演者として参加していただいたりすることが必要だと思います。ターゲットはどのように絞ってましたか?

事務局:ご指摘のとおりで、『STAND BY ME』は英語でPRをしたところフォロワー数が格段に伸び、これを好機と捉えて全体的に海外向けの発信に力を入れたのですが、その分日本のターゲットを置き去りにしてしまった部分があったと思います。世界に届けられることになったがゆえに、マーケットを定めきれないまま、とにかく広く届けようとしていたな、と。

『THIS IS HIP HOP!』や『True Colors Film Festival』も、慣れないオンラインイベントを形にするのに精一杯で、SNS施策を練るところまでできなかった、というのが正直なところです。視聴者に届けるところまで、しっかり練っていかないといけませんね。

杉山:イベントを作り出す苦しさは僕たちも身に沁みてわかっていますし、オンラインは特有の難しさがありますよね。ただ、やはりオフラインのときと同じやり方をしていては、YouTubeで勝負している人たちには勝てません。オンラインに頭を切り替え、戦略を練ることが必要ではないでしょうか。オンラインに強い方が、「オンラインでは、“コミュニケーション”と“共感”と“承認欲求”を大事にしよう」と言っていて、なるほどなと思いました。TRP2021を参加型にするのも、そうした狙いからです。

でも、いまバズっている人たちも、この数ヶ月でいきなり始めたのではなく、ずっと前から色んな試行錯誤をしていて、その結果フォロワーがついているんですよね。だから、失敗を恐れずになんでもやってみることが何より重要だと思います。

事務局:ありがとうございます。杉山さんがオンラインで活動するにあたりどんなことに悩みながらどんな工夫をされているのかがわかり、勉強になるとともにとても励まされました。

今年の3〜5月に実施する『True Colors FASHION』『True Colors DIALOGUE』『True Colors SIRCUS』は、アドバイスを参考にしながら進めていこうと思います。ただ、今年度中の再開が見込めず中止や再延期となった公演もあり、関係者の方には先延ばしになってしまって申し訳なく思っています。この一年をどう捉えて何をやっていくのか、あらためてしっかり考えていかなければと思っています。

杉山:いやー、ほんと苦しいですよね。「とりあえず一杯飲みに行きましょうよ」と言いたいところだけど、それができないのが苦しい。その中でも道を探してやっていくしかなくて、僕も悩みながら進んでいるところです。でも、苦しいながらも向き合うことで生まれることって絶対あると思うので……やっていきましょう、それに尽きますね。

いま明確に先が見えて、答えが見えている団体なんて少数派だと思います。こうして悩んでいる過程も含めて発信し、等身大の姿を見てもらうことにも意義があるんじゃないでしょうか。悩みながら、ともに頑張りましょう。

*ヒアリングは2021年3月4日、Zoomを使って行いました。

文:飛田恵美子

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True Colors Festival

歌や音楽、ダンスなど、私たちの身近にあるパフォーミングアーツ。

障害や性、世代、言語、国籍など、個性豊かなアーティストがまぜこぜになると何が起こるのか。

そのどきどきをアーティストも観客もいっしょになって楽しむのが、True Colors Festival(トゥルー・カラーズ・フェスティバル)です。

居心地の良い社会にむけて、まずは楽しむことから始めませんか。

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