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アドバイザリーパネル・インタビュー: 伊敷政英

不寛容な社会にならないために。アクセシビリティコンサルタント・伊敷政英さんと、視覚障害者がいま感じていることに目を向ける

  • 伊敷政英(いしき・まさひで)さん

伊敷政英(いしき・まさひで)
Cocktailz代表、アクセシビリティコンサルタント、視覚障害当事者
1977年東京生まれ。先天性の視覚障害があり、2020年からはほぼ全盲の状態が続いている。2001年頃よりウェブアクセシビリティに関心を持ち、2003年よりコンサルタントとして企業や自治体・省庁などのウェブサイトにおけるアクセシビリティ改善業務に従事。2010年8月、個人事業としてCocktailzでの活動をスタート。ウェブアクセシビリティ分野での仕事を継続しつつ、ロービジョンの子供にも使いやすくてかわいい・かっこいいノート「KIMINOTE(きみのて)」の企画・制作を行っている。

Zoomのビデオをオンにして出席することに抵抗がある

事務局:新型コロナ感染拡大を受けてオンラインイベントが活発になったことで、視覚障害のある方はどのような不自由を感じていますか?

伊敷さん(以下、敬称略):僕自身は以前からオンラインで会議をしたりイベントをしたりしていたので、そこまで不自由は感じていません。ただ、周囲からは「Zoomの使い方で戸惑った」という声をよく聞きました。最初にアプリをダウンロードして、送られてくるURLをクリックしてZoomを起動して、という流れがそもそもわからなかったり、スクリーンリーダー(画面読み上げソフト)がちゃんと「手を挙げる」機能やチャット機能を案内してくれるのか不安があったり。イベント当日にぶっつけ本番でZoomにアクセスし、よくわからなくて結局参加できなかった、といったケースもあったようです。

事務局:イベント主催者側はどういった工夫をしたらいいでしょうか。

伊敷:イベントの案内をする際に、Zoomを使ってイベントに参加する流れを簡単に説明するといいと思います。障害のない人にとっても、そのほうが親切ですよね。事前にZoomをちゃんと使えるか試せる機会があるとうれしい、という声も聞きました。また、参加者の通信環境によっては音声が聞き取りづらいことがあるので、僕自身がオンラインで話すときは、リアルイベントで話すときよりも、ゆっくりはっきり喋るように心がけています。

それともうひとつ。視覚障害者としては、ビデオをオンにして出席することが恥ずかしいんです。自分の顔がどう映っているのか、自分の部屋がどこまで見えるのか、洗濯物などが入り込んでいないかがわからなくて、気になってしまって。「ビデオをオフにして参加してもいいですよ」という案内があったりすると、とてもありがたいです。

  • 会場案内のルート検証時の伊敷さんの様子

事務局:この1年で、伊敷さんは弱視から全盲に近い状態になったと伺いました。

伊敷:弱視として40数年生きてきて、0.01ほどの視力でもやっぱり目で見て判断し、行動してきました。そうしたことが全くできなくなったので、音声でどれだけ情報を得られるかが鍵になりましたね。

事務局:普段ウェブサイトを使っていて不便に思うことはありますか?弱視の方と全盲の方で、それぞれこちらで気をつけるべきを教えていただけますか?

伊敷:そうですね。弱視の方に対しては、色のコントラストをはっきり取る、細かなマウスの操作が大変なのでそれを要求しない、といった工夫が大事です。全盲の方に対しては、スクリーンリーダーでしっかり情報が取れるように、画像に代替テキストを入れたり、見出し要素を入れたりすることが必要ですね。

困ることが多いのがフォーム入力です。入力欄にフォーカスしたときに、住所を入力する欄なのか、電話番号を入力する欄なのか、全角か半角か、ハイフンは必要なのかといった情報がわからないことが多いんです。そうすると、前後に説明がないか確認しなければならず、時間がかかってしまう。ちゃんとHTMLで関連付けをしてもらえるとありがたいです。

また、セキュリティを高めるために、入力者がロボットではないことを証明するステップが加えられていることがありますよね。Googleの場合は「私はロボットではありません」という文章にチェックを入れるだけでいいのですが、複数の写真の中から橋など特定のものが写った写真だけを選んだり、ぐにゃぐにゃした文字を読み取って入力したりすることを要求するものはお手上げです。

代替手段として音声を聞き取って入力する方法が用意されていることもありますが、これもわざと雑音混じりになっている上に英語なので、リスニング力が試されます。「人間であること」を証明するためのものなのに、それ以上の能力が要求されているような(笑)。このあたりがもう少しアクセシブルになるといいですね。

  • googleアンケートフォームでの音声CAPTCHAのスクリーンショット

「触ること」「近づくこと」が忌避(きひ)される世の中で、それによって情報を得ていた視覚障害者はどうしたらいいのだろう

事務局:コロナ禍のなかで、あらためて考えたことや感じたことはありますか?

伊敷:オンライン化が進んで遠方に住んでいる方ともスムーズに仕事ができるようになった一方で、リアルの場ではかなり不便を感じています。たとえば、お店の前に消毒液が設置されたり、ソーシャルディスタンスを保ってレジに並ぶために2m間隔でテープが貼られたりするようになりましたが、僕たちはそれがわからないので、悪気なく素通りしてしまい注意されることも多々あります。

「触って確認する」こともしづらくなりました。弱視の場合でも、商品を手に取り目に近づけて確認するのですが、いまそういうことをするとひんしゅくを買ってしまうのでは、という不安があります。社会全体が「触ること」「近づくこと」にナーバスになっているなかで、それをしなければ情報を得られない視覚障害者は、とても気をつかいながら生活しています。

事務局:そうした状況を改善するためには、何が必要でしょうか。

伊敷:まずは視覚障害者の状況を知ってもらうことが必要かな。でも、それだけで全部が解決するとは思いません。僕自身もまだ「こうすればいいのでは」というアイデアはなくて、社会全体で議論をする場が生まれることが大切だなと思っています。

「自分と違う人」に対して不寛容になりやすいいま、True Colors Festivalに期待すること

事務局:ここからは、True Colors Festivalのこれまでとこれからを共有します。2020年6月には、パンデミックのなかで障害者を含め誰も置き去りにせず寄り添い合う大切さを訴えるため、40名以上の障害のあるアーティストによるオリジナルミュージックビデオ『STAND BY ME』を配信。9月にはヒップホップをテーマにしたトークイベント『THIS IS HIP HOP!』を開催しました。

伊敷:昨年3月のアドバイザリーパネルミーティングの時点では、事務局を4月いっぱいで閉じるという話もあったと思います。オンラインで発信を継続してほしいとお伝えしましたし、ほかのパネルメンバーからもそうした声が挙がっていましたが、それが実現したことをうれしく思っています。

6月って緊急事態宣言が解除されたばかりで、まだ緊張感の高い時期でしたよね。そうした時期に『STAND BY ME』という曲を選んで多様な人とミュージックビデオをつくり配信するというのは、とても強いメッセージになったのではないでしょうか。

事務局:ありがとうございます。12月には、多様性とインクルージョンをテーマにしたオンライン映画祭『True Colors Film Festival』を実施しました。このオープニングイベントとして、脳性麻痺の女優が演じる映画『37セカンズ』のトークセッションと上映会を行なったのですが、このときはオンラインだけでなく、都内の会場にモニターを数名お招きし、UDCastによる音声ガイドや字幕を体験していただきました。これは私たちにとっても初めての試みでした。

伊敷:UDCast、使ってみていかがでしたか?

事務局:字幕が映るメガネ型端末は最初に音声で同期させる必要があるのですが、それがちゃんと準備できていなくて、映画が始まってから調整する場面がありました。事前のリハーサルが足りていなかったと反省しています。ただ、字幕は問題なく読めたようで、モニターをしていただいた聴覚障害者の方は「感動した、泣いた」とおっしゃっていました。

伊敷:すばらしいじゃないですか! 音声ガイドは視覚障害者にモニターしてもらったんですか?

事務局:はい。音声ガイドの説明がわかりやすく、「場面が頭の中でイメージできた、面白かった」と言っていただけました。映画の内容が良かったことも大きいと思います。現在True Colors Film Festival上では公開していないのですが、Netflixで観ることができて、それもUDCastに対応されているそうです。

伊敷:そうなんですね、観てみます!

  • HIKARI監督(オンライン参加のためスクリーン上)や主演の佳山明さん(中央)、アンバサダーの乙武さん(右)が登壇した「True Colors Film Festival」オープニングイベントの様子 撮影:冨田了平

事務局:4月には、感染症対策を行いながらオフラインでの演劇公演やソーシャルサーカスも開催する予定です。ただ、今年8月に開催できないかと調整していた『True Colors CONCERT』は、さらに延期することにしました。

伊敷:さらに延期するというのは、僕としてはめちゃくちゃうれしいです。元々このTrue Colors Festivalは、オリンピック・パラリンピックに合わせて開催する企画でしたよね。いまのところオリパラは今年夏に実施する方向で動いているのに対し、「同時に開催できないからやらない」ではなく、「オリパラとは時期がずれても開催する」という方向になったのは、とてもすばらしいと思います。

事務局:そうおっしゃっていただけてうれしいです。日本財団としても、コロナ禍のなかでTrue Colors Festivalの重要性をあらためて感じ、オリパラと切り離してでも開催しようと決断しました。今後また新しいことを行なっていけたらと思っていますので、引き続きよろしくお願いいたします。

伊敷:コロナ禍で行動が制限され、不安が募り、自分と違う属性の人に対して不寛容になりやすい状況だと思います。そうしたなかで、True Colors Festivalは「世の中には色んな人が暮らしているんだ」ということを伝えるメッセンジャーの役割を担えるのでは、と期待しています。これからも自分にできることは協力していきますので、よろしくお願いいたします。

*ヒアリングは2021年3月10日、Zoomを使って行いました。

文:飛田恵美子

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True Colors Festival

歌や音楽、ダンスなど、私たちの身近にあるパフォーミングアーツ。

障害や性、世代、言語、国籍など、個性豊かなアーティストがまぜこぜになると何が起こるのか。

そのどきどきをアーティストも観客もいっしょになって楽しむのが、True Colors Festival(トゥルー・カラーズ・フェスティバル)です。

居心地の良い社会にむけて、まずは楽しむことから始めませんか。

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