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アドバイザリーパネル・インタビュー: ジュリア・オルソン

逆境に直面しても前向きに。ひとりひとりがひとりを導くには。車椅子ユーザーのジュリア・オルソンさんと考える、パフォーミングアートの役割

  • ジュリア・オルソンさん

ジュリア・オルソン
会社員、車椅子利用者、DITA主催の演劇公演出演者
岐阜県生まれ。ロンドン、東京、カリフォルニアで育つ。19歳の時、交通事故により、ほぼ全身の自由を奪われる。懸命で継続的なリハビリにより医師の予測を覆す回復を見せる。日本に移り外資系金融会社に勤め、現在は都内で夫と暮らす。自身の経験をもとに障害に対する偏見をなくし、インクルーシブの意識を高めることに力を注いでいる。

いつでも成功できるわけではないし、いつでも好調というわけでもないけれど、自分に挑戦し続ける

事務局:新型コロナウィルスののパンデミック後、日常生活はどのように変わりましたか?

ジュリアさん(以下敬称略):在宅勤務を始めたのは昨年(2020年)の2月末ですから、かなり早かったですね。私の勤めている会社はとても協力的で、実に整然と状況に対応してくれました。COVID-19以前は週に3回オフィスに行っていましたが、週に2回は自宅で仕事をしていたので、移行はそれほど難しくありませんでした。

最初の頃は不安が大きく、脊髄損傷で呼吸が不自由な私がウイルスに感染した場合、体がどのように反応するかが心配でした。呼吸を補助するための道具を買わなければならないのではないか、病院に入れなかったらどうしよう、などとパニックになっていました。夫は日本語を話せませんし、離ればなれになって何が起こっているのかわからなくなったらどうしよう?と。確かに多くの不安がありました。

事務局:それらを巡る経験は感情面ではどうでしたか?

ジュリア:最初はパンデミックからの息抜きが無く、それが一番のストレスだったと思います。

考えすぎたり、万事が心配になってしまうようなことがあって、そんな中、希望の光を見出そうともがいていました。そうして、水分補給、1日1回の短い散歩、運動…といった簡単な課題を行うよう自分に言い聞かせ続けることにしました。それらの小さなルーティンを作り、継続することで、不安な気持ちをある程度まで抑えることができました。

私個人的には、本を読んだり、何かを書いたり、日記をつけたりすることさえ、ストレスや不安を解消する助けになりました。書くことは自身の感情にはけ口を与えやすくするので、心の健康に良いですね。

また、私たちは自分たちが居心地よく感じられる要素をすべて詰め込んだ形へ家を改造し始めました。家に居ることを楽しめるように、植物を置いたりしました。

事務局:パンデミックの間、障害者が生活する上で歓迎すべき変化は何かありましたか?

ジュリア:今回のパンデミックは、これまでは誰もが「ダメ」と言っていたことに対して、どのくらい適応していけるのか示すことになりました。アメリカでは多くの人々がリモートで働くことが許されていなかったり、リモートで学校に出席したり処方薬の入手や医療機関の予約を遠隔操作で行ったりすることができませんでした。ところが今では突然そういったサービスを誰もが必要とするようになったため、可能になりました。

これまで障害者の声がこのような変化を求めていたけれど聞き入れられてこなかったのは残念ですが、少なくとも今は変化が起きていて、それは私たち全員にとってこの状況から得られたポジティブな事だと言えるでしょう。

  • 事務局メンバーも参加してのオンラインヒアリングの様子

建前と本音、そして文化の違いが私たちの対処メカニズムに与える影響

事務局:現実の生活で友人に会えないことで落ち込んだりしませんでしたか?

ジュリア:あまりしませんでした。ですが正直なところ、オンラインでの交流会に参加した時でさえ、時折自分があまりに圧倒されているのを発見して、小休止をとらなきゃと思うことがあります。これはこのパンデミック中に学んだことです。

今、多くの人が寂しさを感じていると思います。心の中の本心を共有できないことが人の孤立感をより強めることになることもあります。

事務局:それは日本の文化的な問題だと思いますか?

ジュリア:建前と本音の問題だと思います。

誰もが自分の本音を隠しています。本音をずっと持っているのに、それを他者に見せられず、見せることもないので、結局悲観的で嫌味な態度をとってしまうことになるのです。

家にいるときは、自分を偽る必要はありません。自分に正直でいられる、100%本音、それは贅沢なことです。そんな気持ちになれるコミュニティを作ることが大切― オープンであり続けながら繋がっていられるような。

これは素晴らしい機会だと思います。障害者であろうと、LGBTQIAであろうと、人種が違っていようと、誰もが孤独を経験し、皆日々苦労しているのですから、お互いの差異よりも、この根本的な共通点にこそ注目すべきだと思います。

事務局:本音を表現するのに、アートは役立つと思いますか?人前に出すつもりではなくても、アートを作ることは自分とのコミュニケーションに役立つと思いますか?

ジュリア:絶対に役立ちます。自分の体の限界や最大の可能性に挑戦している人たちを見て、自分でもやってみようと感化されたり、違った視点から物事を見ることを促されたりしますよね。そういう意味で、非常に強い影響力があると思います。

ただ、アートの世界には強いヒエラルキー構造があることにも気づきました。 人々が自由に自分自身を表現できる場所を見つけるのは困難が伴うかもしれません。

  • オンラインヒアリングでのジュリアさんの様子

True Colors Festival 今、そしてこれから

事務局:True Colors Festival は、2020年に「Stand by Me」 、「This is Hip hop」 (英語音声に英語ライブ字幕、日本語ライブ字幕、国際手話翻訳、日本手話翻訳)、「True Colors Film Festival」 など、いくつかのオンラインプロジェクトを企画しました。

ジュリア:さまざまな場所からとても多くの人を集めることができたのは素晴らしいことです。生きていることを実感できるもの、情熱を傾けられるものを見つけるのに苦心している人は多いと思いますし、私もまたそうだと思います。書いたり読んだりすることは、ちょっと地味な感じがするので、もっと多くの人に True Colors Festival を見たり体験してもらう方法があればいいなと思います。

事務局:True Colors Festivalは今後も継続しますし、アダプティブ・ウェアのオンライン・ファッションショーの公開も控えています。

ジュリア:多くの企業がアダプティブ・ウェアを発表しているのは素敵なことですね。私は常に素材や動きやすさをチェックしています。全てを極力シンプルに保つようにしています。なぜなら、もし少しでも着心地が悪ければ結局着ないでしょうし、つまるところ着もしない服をたくさん持っていることになってしまうので!

事務局:パンデミックを乗り越えた後、True Colors Festivalはどのように発展していくと思いますか

ジュリア:私たちがインクルーシビティの問題を考えることで変化はやってくると思います。それは、今後のオンラインとオフラインのイベントの両方に現れてくるでしょう。
今のところ、障害者に極度に特化したイベント開催への道のりには、ある種の困難さ、ないし抵抗感があるように見えます。物事はむしろ予想と反することも多く、インクルーシビティを広めようとしながら結果的に排他性(エクスクルーシビティ)を生むこともあると思います。様々な社会的グループから生まれる才能にスポットを当てたいという様々なイベントの意図は理解できますが、それぞれのコミュニティが歩み寄り、一体化できるような仕掛けなくしては、結局は逆効果になってしまいます。
最後に、障害のあるアーティストやパフォーマーが必ずしも「才能がある」とは限らない場合もあると思いますが、障害のあるアーティストを他の人(健常のアーティスト)と同じ舞台上で前面に押し出すことは、障害者と健常者という比較を生みやすく、「障害者に対し健常者と同じ基準を要求していない」「健常者と同程度に優れている必要はない」という誤ったメッセージを発信する危険性もあります。その意味で、障害者のさまざまなコミュニティの仇とならないように意識できると良いと思います。
*インタビューは3月31日にZoomを利用して行われました。

インタビュー:中島小百合

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True Colors Festival

歌や音楽、ダンスなど、私たちの身近にあるパフォーミングアーツ。

障害や性、世代、言語、国籍など、個性豊かなアーティストがまぜこぜになると何が起こるのか。

そのどきどきをアーティストも観客もいっしょになって楽しむのが、True Colors Festival(トゥルー・カラーズ・フェスティバル)です。

居心地の良い社会にむけて、まずは楽しむことから始めませんか。

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