アドバイザリーパネル・インタビュー: 加藤悠二
だれもがオンラインでつながれるわけではないから。ゲイ・アクティビスト加藤悠二さんと考える、コロナ禍でのコミュニティのあり方
-
加藤悠二(かとう・ゆうじ)さん
加藤悠二(かとう・ゆうじ)さん
ゲイ・アクティビスト、アーティスト。1983年東京都生まれ。国際基督教大学ジェンダー研究センターに非常勤・常勤職員として、キャンパス環境改善等に取り組む。「みたかジェンダー・セクシュアリティ映画祭 in ICU」第1〜6回のコーディネーター。2006年より「くま絵師・悠」名義で活動を開始。2013年グループ展「Rainbow No Nukes」などを主催。
オンラインで話しているときに、親が入ってきたらどうしよう?
事務局:新型コロナ感染拡大を受け、加藤さんが関わっていらっしゃる活動にはどのような影響がありましたか?
加藤さん(以下、敬称略):NPO法人actaが運営するHIV情報サイト「HIVマップ」のSNS更新や広告キャンペーン立案をお手伝いしています。このサイトは「HIV検査がしやすい環境をつくる」ことをひとつの大きなミッションとしているのですが、今年度は保健所がコロナ対応に追われ、各地でHIV検査が休止となってしまいました。
受け皿がないのに検査に行きましょうなんて無責任なことは言えないので、この1年は、HIVの基礎知識や最新治療について知ってもらえるよう、サイトの整備を行なっていました。ただ、状況が長引くなかで、定期的にHIV検査をしていた人たちの足が遠のき、症状が悪化してから感染に気づくケースが増えていくのでは、と危惧しています。来年度は、withコロナにおけるセーファーセックスのあり方を考えるような取り組みができれば、と計画しているところです。
-
事務局メンバーも参加してのオンラインヒアリングの様子
事務局:さまざまな活動がオンラインになりましたが、加藤さんの周囲でもそういった事例はありますか?
加藤:ゲイバーは密になりやすいので営業ができず、Zoomを使って営業するお店もありました。客はそのバーの写真を背景画像に設定し、一緒に飲んでいるような雰囲気を楽しむんです。ただ、Zoomだと声が重なったときに聞き取りづらく、気軽な会話をするのが難しいなと感じました。また、公開範囲の問題もありますね。参加したZoom飲みの様子がPeriscopeでライブ配信されていたことに後になって気づき、「それは居心地が悪いな」と思ったことも。
最初はお店によく行く人達が集まっていたけど、そのなかでもよりコアな人達が集まるようになっていった印象も受けました。Zoomではなく、ツイキャスを選んだお店もあります。オンラインでも、お店それぞれの色や性格が出ていましたね。
事務局:そうした変化を受けて、あらためて感じたこと、考えたことはありますか?
加藤:肩身の狭い想いをしがちなLGBTの居場所をつくる活動に関わってきた立場として思うのは、「オンラインはひとつの手ではあるけど、みんながみんなオンラインでつながれるわけではない」ということです。
特に、実家暮らしで家族にカミングアウトしていない若年層の場合、「オンラインで話しているときに親が部屋に入ってきたらどうしよう」「壁が薄いから会話が聞こえてしまうかもしれない」「急に通信費が増えたら怪しまれるんじゃないか」と心配して、気軽には参加できないかもしれない。
僕自身は家族仲が良好なので「オンラインもいいね」なんてのんきに言っていられるけど、家や学校、職場でずっと息が詰まる毎日を送っていて、週に1回、月に1回どこかのコミュニティに参加することで支えられていたという人が、いま追い詰められているのではないかと心配しています。
もちろん、リアルな場が万能だったわけではなくて、「交通費がかかるから行けない」「門限があるから行けない」という人もいたはずです。本当は、リアルな場とオンライン上の場の両方が揃っていて、その人の状況に応じて選択できるといいですよね。コミュニティのあり方や今後の方向性を考えていかないと、と思っています。
-
オンラインヒアリングでの加藤さんの様子
True Colors Festivalなら、マスメディアと連携し幅広い層にメッセージを届けられるのでは
事務局:True Colors Festivalでは2020年、さまざまな障害のあるアーティストによるオリジナルミュージックビデオ『STAND BY ME』やヒップホップをテーマにしたトークセッション『THIS IS HIP HOP!』を配信、多様性とインクルージョンをテーマにしたオンライン映画祭『True Colors Film Festival』も実施しました。これについて、ご意見があればお願いします。
加藤:チケットの売上枚数が収益に影響する有料のリアルイベントと違って、無償展開のオンラインイベントは目標設定や効果測定が難しいですよね。何人に参加してもらえれば良しとするのか、何回再生されれば良しとするのか、測りかねていらっしゃるのでは、という印象を受けました。
また、リアルイベントだと会場となる国にターゲットを絞るしかありませんが、オンラインだとその制約が無くなって自由度が増す一方で、「どの国のどの言語の人に対して何を届けたいのか」がふんわりしがちだと思います。サイト等を拝見して、「誰に向けたものなのかな」と感じました。
事務局:おっしゃるとおりで、オンラインのイベントは目標設定が難しいと思いながら取り組んでいました。オンラインになったことで、参加者の反応が掴みづらくなったとも感じています。リアルな場であれば、アンケート以外にも表情や拍手などから「満足してもらえているな」「ちょっとつまらなそうにしているな」といった手応えを得られますが、オンラインの場合、SNS等に感想を上げていただいた方の声しか拾うことができません。
ターゲットに関してもそのとおりです。オンラインになったことを機に英語で発信したところFacebookのフォロワーが一気に1,000人ほど増え、これに手応えを感じて海外向けの発信に力を入れていました。ただ、海外向けと国内向けでは受け入れられるトーンなども異なりますよね。学びながら取り組んでいるところですが、両方を取ろうとしてうまくいっていなかった部分もあると思います。
これから実施していくプログラムは東京都内で開催するものが多いので、ターゲットを明確にしてPRしていきたいと思います。それ以外に、今後のTrue Colors Festivalの方向性について、何かご提案やアドバイスはありますか?
加藤:日本財団を母体としているからできることもあると思います。小さな団体やコミュニティではできるだけ予算をかけずオンラインで活動するしかありませんが、どんなにオンラインで盛り上がっているように見えても、知らない人は知らないんですよね。マスメディアはやっぱり一般の人に広く届ける力があるな、とこの1年で痛感しました。
勝手な想像ですが、True Colors Festivalならテレビや新聞のようなマスメディアと組めるのではないでしょうか。テレビ番組をつくり、アーカイブをYouTubeに字幕つきでアップロードして、テレビを持っていない人や海外の人にも届けるといった、マスメディアとオンラインをかけ合わせた新しいやり方もできると面白いですよね。一個人や一団体ではアプローチが難しい層に、メッセージを届けられるのでは、と期待しています。
文:飛田恵美子
アドバイザリーパネルの皆さんと考えるコロナ禍における学びとこれから(個別インタビュー)
https://truecolorsfestival.com/jp/advisory-panel-interview
不寛容な社会にならないために。アクセシビリティコンサルタント・伊敷政英さんと、視覚障害者がいま感じていることに目を向ける。
https://truecolorsfestival.com/jp/advisory-panel-interview-ishiki
逆境に直面しても前向きに。ひとりひとりがひとりを導くには。車椅子ユーザージュリア・オルソンさんと考える、パフォーミングアートの役割
https://truecolorsfestival.com/jp/advisory-panel-interview-olson
2日間で44万人が視聴した「TRP2020 #おうちでプライド」。共同代表・杉山文野さんと考える、オンラインでの戦い方
https://truecolorsfestival.com/jp/advisory-panel-interview-sugiyama
急いで言葉にしないほうがいいのかもしれない。「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」林健太さんが、コロナ禍のなかで考えていること
https://truecolorsfestival.com/jp/advisory-panel-interview-hayashi
オンライン配信での聴覚障害者に向けた工夫と気遣い。シアター・アクセシビリティ・ネットワーク廣川麻子さんと考える、配信環境の新基準
https://truecolorsfestival.com/jp/advisory-panel-interview-hirokawa
アドバイザリーパネル一覧
https://truecolorsfestival.com/jp/advisory+panel