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アドバイザリーパネル・インタビュー: 廣川麻子

オンライン配信での聴覚障害者に向けた工夫と気遣い。シアター・アクセシビリティ・ネットワーク廣川麻子さんと考える、配信環境の新基準

  • 廣川麻子(ひろかわ・あさこ)さん

廣川麻子(ひろかわ・あさこ)さん
聴覚障害の当事者、NPO TA-net理事長/東京大学先端研熊谷研究室。
2012年観劇支援団体 シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(TA-net)設立。「みんなで一緒に舞台を楽しもう!」を合言葉に、さまざまな公演の観劇支援情報の発信や、観劇支援の企画立案、人材育成に取り組んでいる。

新型コロナ関連記者会見で、「手話通訳がつくこと」が当たり前になったのかもしれない

事務局:まず、聴覚障害者が、コロナ禍でどんな影響を受けたのか、文化芸術の楽しみ方という点から教えていただけますか?

廣川さん(以下、敬称略):文化芸術に興味のある方々は全国各地にたくさんいますが、公演はどうしても東京などに偏りがちでした。コロナ禍でオンライン配信が増え、さまざまな方がアクセスしやすくなったことは良かったと思っています。手話通訳者も、東京だけでなく全国各地に住んでいる方に、自宅にいながらオンラインを使って支援活動をしていただく環境が整いました。手話通訳の機会が増え、経験が積み重なることで通訳技術も向上していると感じています。

一方で、格差も出ています。ITが苦手な人はオンラインの公演やイベントに参加することができず取り残されてしまいました。主なバリアとなっているのは最初の設定や接続の部分なので、たとえばご自宅に訪問して環境を整えるサポートがあったらいいのではないかと考えています。一度設定ができれば、その後はご自身で楽しんでいただけるはずです。いまは難しいですが、今後感染状況が落ち着いたら、そういった支援ができる可能性も出てくると思います。

  • オンラインヒアリングでの廣川さんの様子

事務局:TA-net(シアター・アクセシビリティ・ネットワーク)の活動にはどのような変化がありましたか?

廣川:やはり、すべてがオンラインになったことでしょうか。TA-netでは毎月集合型の定例会をしていたのですが、昨年4月からオンラインで行うようになりました。北海道や名古屋、神戸など各地にいる支援者ともつながり、オンラインでの活動方法を学び合い、協力し合っています。

ただ、オンラインを導入するにあたり、どうしても新たに購入しなければいけないものもありました。幸い文化庁の助成金があったので、通訳者個々人にタブレットなど必要機器の購入費を申請してもらいましたが、オンラインに移行する際にかかる費用面はひとつのネックでしたね。

今年2月にはオンラインでシンポジウムを開催しました。アーカイブができるということは、オンラインの良い面だと思います。常時公開することもできますし、期間限定でアーカイブを配信するという選択もできますよね。知っていただく機会を増やすことにつながると思います。

昨年舞台手話通訳をする予定があった公演の多くは、残念ながら中止や延期となってしまいました。一方で、新たな依頼も増えています。以前は役者の隣に立って手話通訳を行うことに違和感を感じる方も多かったと思いますが、コロナをめぐる記者会見で、首相や知事の隣に手話通訳がつく様子が見られるようになり、手話通訳に見慣れた、手話通訳がつくことが当たり前と感じられるようになったのでしょうか。理由はわかりませんが、演劇に手話通訳をつけてみようと思われる方が増えていて、嬉しく思っています。今年は8公演に舞台手話通訳をつける予定です。

  • 2021年02月に実施された第7回TA-netシンポジウムの様子

手話通訳者のワイプを置く位置や、背景・服装などへの工夫も

事務局:オンラインで配信をする際、どのような点に気をつけると良いでしょうか。

廣川:ろう者でも、手話がいいという人もいれば、字幕のほうがいいという人もいるので、TA-netでは必ず複数の方法を用意するようにしています。関係する団体から、「配信の際、手話通訳者のワイプをどこに置いたらいいか」というご相談をいただくこともあります。位置をあらかじめ決めてしまうというよりも、人物や字幕とかぶらない、邪魔にならない空間をその都度探して、調整しながら配置していただくようにお伝えしています。

また、映像の背景の色と手話通訳者の背景の色があまりにもかけ離れていると違和感を与えてしまいますし、フランクな会話なのに手話通訳者がピシッとしたスーツを着ているとちぐはぐな印象になってしまいます。どういった背景や服装がいいのか、あらかじめ手話通訳者とすり合わせができると良いと思います。

字幕に関しては、UDトーク(※音声を認識しその場でテキスト化するコミュニケーション支援アプリ。誤認識や誤変換もあるので、人による修正が必要な場合も)を使い、遠隔でリアルタイムに字幕を付与・修正する動きが広まっています。Zoomを使う場合、画面のひとつにUDトークの内容を表示するという方法もありますね。UDトークのログを使い、YouTube動画に字幕を入れることも簡単にできるようになりました。そうした技術面は日々進歩していますし、配信側も色々な方法で字幕をつけてくださっていると感じています。

事務局:コロナ禍を振り返り、あらためて考えていらっしゃることはありますか?

廣川:手話通訳や字幕のついたイベントが増え、機会が増えていると思います。ただ、情報発信が追いついていないのではないでしょうか。後になって「イベントがあったことを知らなかった」という声を聞くことが少なくありません。聞こえない人の世界にも、インフルエンサーがいます。発信力のある方と協力し、情報を届ける工夫が必要かなと思います。

イベントのアーカイブ配信や文字起こしによる紹介を

事務局:TCFでは2020年、ミュージックビデオ『STAND BY ME』の制作と配信、ヒップホップをテーマにしたトークイベント『THIS IS HIP HOP』、多様性とインクルージョンをテーマにしたオンライン映画祭『True Colors Film Festival』を実施しました。

廣川:開催できてよかったです。残念ながら観ることができなかったのですが、イベントのアーカイブ配信や、文字起こしなどはありますか? 

事務局:アーカイブは一部公開しているものもありますが、文字起こしはこれからぜひ進めたいと思います。
今年の3〜5月には、中止していた演目のいくつかを、オンラインと実際の会場での上演とで再開します。

廣川:こうした計画があること自体に希望を感じます。地域のろう者協会の会報などにも情報を掲載できるよう、早めに発信していただければと思います。True Colors Festivalは、さまざまな人がつながり、新しい出会いや視点が生まれる場だと捉えています。たくさんの方に参加してもらいたいですね。

事務局:今後、True Colors Festivalにどんなことを期待しますか?

廣川:いろいろな団体をうまく巻き込み、活動を広げていけるといいですね。
オンラインでの開催もいいですが、対面の機会を欲している方もいます。感染防止対策をしっかり施した上で、人と人がつながることのできる形でイベントを開催することも視野に入れていただければと思います。

*ヒアリングは2021年3月2日、Zoomを使って行いました。

文:飛田恵美子

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True Colors Festival

歌や音楽、ダンスなど、私たちの身近にあるパフォーミングアーツ。

障害や性、世代、言語、国籍など、個性豊かなアーティストがまぜこぜになると何が起こるのか。

そのどきどきをアーティストも観客もいっしょになって楽しむのが、True Colors Festival(トゥルー・カラーズ・フェスティバル)です。

居心地の良い社会にむけて、まずは楽しむことから始めませんか。

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