voice
音が鳴れば
人は笑い泣く
歌い踊り手を叩く
それは世界が理解する術
僕らが一つだと理解する術
誰の過去も関係なく
どこから来たかも関係ない
THE CONCERT 2022出演者ラウル・ミドンの歌詞から
医師の顔を持つシドニー・タンは、診察とパフォーマンス・アーツ製作のいずれをも真摯に両立する、多忙極める人物です。
シドニーはTrue Colors Festivalにとって初となる「アジア太平洋障害者芸術祭~True Colours~」(シンガポール、2018)の製作したのち、製作・監督として2本のミュージックビデオに携わりました。ひとつ目の『Stand By Me』は新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)によるパンデミックの真っ只中の2020年に、ふたつ目の『You Gotta Be』は2021年に製作されました。 2本のビデオは現在までに合計3,600万回以上再生され、シドニーのTrue Colors Festival (TCF)のための企画製作は好評を博しています。TCFのグローバル・コンサート発端時には自然と彼の名が浮上し、シドニーはTHE CONCERT 2022のクリエイティブ&ミュージックディレクターに着任しました。
しかし、コンサート製作には決して簡単とは言えない道のりがありました。
まずは、多様で濃厚なアーティストたちが待ち構えています。ラウル・ミドン、マンディ・ハーヴェイ、トニー・ディー、レイチェル・スターリット、かんばらけんたといった著名人やTCFの仲間に加え、なんと世界レベルのポップ・スーパースターであるケイティ・ペリーもスペシャルゲストとして参加します。さらに、日本からはきゃりーぱみゅぱみゅの参加も決まりました。がんばれ、シドニー!
次にシドニーを待ち受けていたのは、オンラインでの製作です。世界中のアーティストが、お互いを知り合うところから、選曲、コラボの内容、意見交換、微調整まで、その全てがオンライン上で進められました。
製作陣とアーティストたちがようやく対面できるのは、11月19日と20日の本番直前の11月半ば、東京でのリハーサルが念願の初顔合わせとなります。
そして第三のチャレンジは、シドニー本人が自分で仕掛けたこと。このコンサートは視覚に訴える演出のみならず、見る人の心を開き、新しい物の捉え方を生み出すコンサートを目指しています。参加アーティストの中には障害のあるアーティストもたくさんいます。彼らは型にはまらない、豊かなストーリーに溢れた人生を送ってきました。そのユニークなストーリーの数々を、作品になる前の記録ビデオや、作品内のナレーションを通じて、そのままに伝えようと試みています。
THE CONCERT 2022は人生というストーリーをテーマにしたコンサートであり、シドニーと製作チームは企画の早いうちからアーティストにも参加を依頼。おかげで製作の種となる逸話には事欠きませんでした。
「たとえば、スパーシュと彼の母、ジグスと、スパーシュの曲『This Is Me』を共同アレンジしているときには、アイディアが次から次へと溢れ出て、部屋が創造の興奮で満ちていました。『タブラを試そう、シタールも試そう!全部やってみよう!!』という具合でした。ふと、これが本当に、『出産直後にあと48時間しか生きられない』と医師から通達された男の子だろうか?という思いがよぎりました。」そうシドニーは振り返ります。
別の例では、ピアニストのレイチェル・スターリットのストーリーがあります。ショパンの作品10-12「革命のエチュード」の演奏を約束してくれましたが、その曲は技術的にも表現的にも非常に難易度の高い曲として知られています。シドニー曰く「曲をモノにするまで、最低でも3から6ヶ月は必要です。」とのことですが、盲目のレイチェルは耳だけを頼りに曲を覚える必要があるにも関わらず、ものの三週間でマスターしてしまいました。
それぞれのアーティストと親密に共同作業を重ねていく中で、シドニーは彼らのことだけではなく自分自身についても新しく学んだ事があると言います。
「それは自分の限界についてです。自分の中にある限界という先入観を捨て、途方もない才能とアビリティの存在を認め、身を任せれば良いのだと気づきました。」
「ZoomやメッセージアプリWhatsApp越しのコミュニケーションやリハーサル、録音は楽しくありません。1日にさまざまな国の時間帯を行き来しました。ブラジルとは朝に、日本とは昼過ぎに、ヨーロッパ、アメリカ、カナダとは夜に。それぞれグーグル翻訳で、リアルタイム翻訳を行いました。ポルトガル語と日本語を同時に英語に翻訳するのです。そしてこれらは全て、世界的なパンデミックの只中の話です。本当に大変でした。」
しかし、人生と同じように、この経験もまた一面的ではありません。「言うまでもなく、険しいプロセスでした。しかし、レイチェルやジョナタ、ウィー・アー・ワンのフスナイン、スパーシュ、フェデリコ、それにトニーなんかのことを思い浮かべると、これは仕事じゃない、と思えました。友人と集まって過ごしている。そう考えると、作業は楽しく、意欲が湧いたのです。」シドニーは語ります。
11月19日と20日、東京ガーデンシアターにて催されるTHE CONCERT 2022にて、煌めきや音楽、そしてさまざまなストーリーが花開く様子をぜひ目撃してください。