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True Colors THEATER

「「多様な視点」と「新たな映画の可能性」を実感。世界への、社会への視野を広げる機会に」TRUE COLORS FILM FESTIVAL-リポート

「多様な視点」と「新たな映画の可能性」を実感。世界への、社会への視野を広げる機会に

水上賢治

TRUE COLORS FILM FESTIVAL2021予告動画

まず、「True Colors Festival」は、その主旨を「パフォーミングアーツを通じて、障害・性・世代・言語・国籍など、個性豊かな人たちと一緒に楽しむ芸術祭。誰もが居心地の良い社会の実現につなげる試み」と記している。

その中で、二回目の開催となった「TRUE COLORS FILM FESTIVAL 2021」については「多様性に触れるための映画祭」。テーマは「Perspectives/ 視点」と記している。

今回の本映画祭で実感したことをひと言で表すなら、そのままになるが「多様な視点」にほかならない。

改めて、物事には多様な見方がある、視点によって見えてくる景色がまったく違ってくる、そのことに気づかされる機会となった。

そもそも、「多様な視点をもって」と言うのは簡単。でも、それを、いくら心にとめていても保ち続けることは案外と難しい。

ある事柄についてイメージが自身の頭にひとつ植えつけられると、それと同様の見方ばかりに目がいって、ひとつのイメージにどうしてもとらわれていく。

その結果、知らず知らずのうちに視野や視点がアップデートできないまま、狭まり偏ったものになっていたりする。

そういう中において、今回の上映作品はいずれもいままで知らなかった世界を知ることで視野が広がる、驚きの発見があるものばかりだった。

Feeling Through

  • Feeling Through (監督:ダグ・ローランド|アメリカ|2021年|18分)

中でもとりわけ、心に深く残ったのが、2021年の第93回アカデミー賞 短編映画賞にノミネートもされた『Feeling Through』だ。

夜も更けたニューヨークの人気のない路上で、貧困に喘ぐ若者と、バス停が見つからず道に迷う盲ろう男性が偶然鉢合わせる。

この場面を前にしたとき、なんとなくこの二人の置かれた立場や容姿からの印象、仄暗いストリートという場所から、世知辛い世情を反映させたようなトラブルが起きるのではないかと、ついつい予見してしまう。

ところがその予感は見事に外れ、わたしたちは思いもしない、「お互い様」の意味を噛みしめる場面に遭遇することになる。

当初、若者は仕方なく盲ろうの男性に手を貸している様子で、対応も親切とは言い難い。

立ち寄った売店での支払い時には、見えていないことをいいことに盲ろう男性の金をくすねる。

一方、盲ろう者の男性もなかなかの強者。

もう少しでバスが来るというところで、喉が渇いて死にそうとだだを捏ねる。

仕方なく若者が売店に連れていくと、案の定、その間にバスは行ってしまう。

それに対し、盲ろうの男性は「まあそんなこともあるさ」といった感じで、傍から見ると、ちょっと厚かましい。

ようはどっちもどっち。二人のやりとりは最初まったく嚙み合わない。

でも、こうしたいくつかのやりとりを交わし、お互いのスタンスをつかんだとき、どちらが上でも下でもない、二人の間には不思議と対等な関係が芽生える。

二人の己の中にもあった生活困窮者と障害者という足かせも外れ、どちらもひとりの人間として向き合う。

この瞬間から、とりわけ若者の意識が大きく変化する。

それまである種の義務感で半ば嫌々応じていた彼が、自らの意思をもってバス停を探していた盲ろうの男性に手を差しのべる。

そうなったとき若者ははたと気づく。実は盲ろうの男性を目的地行のバス停へ導こうとしていた自分自身の荒んだ心が、この男性の存在によって善き方へと導かれたことを。

その光景を前にしたとき、わたしたちはきっと噛みしめるに違いない。「お互い様」という言葉の持つ意味を。

『Feeling Through』はショート・フィルムながらそんな深く考えさせられる、「ともに生きる」ことの本質にも迫るすばらしい作品だった。

今回の映画祭について「多様な視点」を実感する場になったと先に触れたが、もうひとつ実感したことがある。

それは、映画の新たな可能性を実感する機会にもなったことだ。

Connecting The Dots: The Story of Feeling Through

  • Connecting The Dots: The Story of Feeling Through(監督:ダグ・ローランド|アメリカ|2021年|25分)

Bigger Than Us

  • Bigger Than Us(監督:マヤ・アルバネス|アメリカ|2021年|16分)

今回の「TRUE COLORS FILM FESTIVAL 2021」では、本映画祭で紹介された映画のメイキングとなる作品も配信上映された。

「Connecting The Dots: The Story of Feeling Through」は、さきほど触れた「Feeling Through」の、「Bigger Than Us」は、長編映画「Best Summer Ever」の撮影現場を記録したドキュメンタリー。

「Feeling Through」は、盲ろう者を主役に起用し、「Best Summer Ever」は、障害のある役者やスタッフが起用されて制作された。

障害やトランスジェンダーといったマイノリティに焦点を当てた映画は、とりわけ近年数多く生み出されている。

だが、当事者が実際に演じているものは数えるほどしかない。ほとんど見たことがないというのが実情だろう。

そういう意味で、「Feeling Through」と「Best Summer Ever」は稀な存在といっていい。

そのメイキングとなる二つのドキュメンタリーは、それぞれの作品の制作の舞台裏が明かされ、障害のある役者やスタッフがどうやって作品に臨み、どういう苦労や喜びをもって創作に臨んだのかがみてとれる。

その舞台裏からみえるのは、ハンディなど感じさせない役者やスタッフが数多く存在することにほかならない。

もちろん、プロの役者のすばらしい演技で、完璧に障害者の役を表現し、伝えるものがあるのは確か。

障害者の役は当事者が必ず演じるべきとも思わない。

ただ、彼らの姿をみている、障害者の物語ならば、当事者が企画し、当事者が演じ、当事者の声を届けるような今までほとんどみかけなかった映画がこれからどんどん生まれるのではないか?と期待せずにはいられない。

それは映画の新たな可能性を秘めるといっていいだろう。

最後に、これだけあらゆる情報が溢れる現代、その中から正確な情報を探し出すのも、なかなか難しいことではないだろうか?

そういう時代において、ひとつのテーマのもと、きちんと吟味された映像作品を通して、社会や人々に多様な視点を提供する「TRUE COLORS FILM FESTIVAL」のような場は、これからもっと重要度を増す気がする。

しかも、「TRUE COLORS FILM FESTIVAL」はすべての人々がアクセスできて多様な価値観に触れられる。こういう真の拓かれた場というのはなかなかあるようでなく貴重な場に思える。

そのためにも、この場を一過性ではなく、継続していくことが重要。これからも、「TRUE COLORS FILM FESTIVAL」が途絶えることなく続いてくことを切に望む。

水上賢治
映画ライター。
レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA2018>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。
https://news.yahoo.co.jp/byline/mizukamikenji

True Colors Festival

歌や音楽、ダンスなど、私たちの身近にあるパフォーミングアーツ。

障害や性、世代、言語、国籍など、個性豊かなアーティストがまぜこぜになると何が起こるのか。

そのどきどきをアーティストも観客もいっしょになって楽しむのが、True Colors Festival(トゥルー・カラーズ・フェスティバル)です。

居心地の良い社会にむけて、まずは楽しむことから始めませんか。

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