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【Meet The Family(TCFファミリーの素顔)】「TRUE COLORS FILM FESTIVAL」のプログラム『コーダ あいのうた』〈日本語バリアフリー字幕版〉特別先行試写とトークで企画を担当した「東京大学UNiTe(ユナイト、以下UNiTe)」に、SDGsと文化芸術との関わりについての考えなどを伺いました。
Q: UNiTeはどのようにして生まれたのでしょうか?東大の学生団体とのことですが、そのような活動に取り組み始めた理由や、経緯、目的などを教えていただけますか?
飯山:UNiTeは、2016年に東京大学の「国連と文化」という授業を通じて国連本部を訪れた学生が中心となって立ち上げた団体です。同じ世代の若者を中心に、より多くの人に国連の活動を知ってもらい、若者としてできることを考え、行動したいという思いから誕生しました。国連や国際的な活動というと、政治や経済等をめぐる取組みが思い浮かべられがちですが、私たちは、形のあるものだけでなく、文化や芸術が人の心に働きかける力を大切に、SDGsの「誰一人取り残さない」世界の実現に向けた活動を行なってきました。
Q: UNiTeは「文化・芸術を通して国連(UN)と東大(UT)を結び付ける」をテーマに掲げていますが、活動について教えてください。
菅田:私たちは、主に二つのプロジェクトを軸に活動を展開してきました。
一つめに、EMPOWER Project(エンパワープロジェクト)では、支援が必要な人ではなく、協力したい人が目印となる「マゼンタ・スター」マークを身につけ、その思いを表す「協力者カミングアウト」を推進しています。これは、人をカテゴリーでとらえるのではなく、一人一人がさまざまな違いをもった存在であることに思いを馳せ、その場その場のニーズに基づいて、互いに協力し合うことで、皆が暮らしやすい社会を目指そうという活動です。2017年に国連本部でこのプロジェクトについて発表したほか、様々な国連機関や企業の方々とコラボレーションしながら、この考え方を世界で広めています。
EMPOWER Projectのシンボルマーク「マゼンタ・スター」
二つめは、ユニセフと立ち上げ、運営しているボイス・オブ・ユース JAPANです。これは、誰でもアクセスできるウェブプラットフォームで、住む地域や国籍、障害といった違いに関係なく、あらゆる若者が、安全に自分の思いやアイデアを共有できる場を目指しています。童話や写真、文章などを通じて、様々なバックグラウンドの若者が思いを自由に表現してくれていて、多様な声に触れることができます。これは、より大きな声に注目が集まりがちな今、安全・安心な場で、声にならない声に耳を傾けようという取組みでもあります。
これらの活動では、文化・芸術が常に重要な役割を担っています。文化・芸術は、人の心と心が直接伝え合い、響き合うことを可能にし、一見難しい社会課題に取り組むことへのハードルを下げてくれるものでもあると思うからです。例えばEMPOWER Projectでは、マゼンタ・スターをファッションに取り入れやすいように、世界で活躍するモデルである桐山マキさんはじめとするファッション界や、ピエール・エルメ等、食の世界にも協力をいただき、活動をしてきました。ボイス・オブ・ユース JAPANでも、フォトグラファーの作永裕範さん始め、さまざまなアーティストの方に協力をいただいています。
また、渋谷ヒカリエにて、多様性を新たな視点から描いた映像作品の映画祭を開催したり、国連障害者権利条約締約国会議において、ブロードウェイ俳優の方々と共に文化・芸術のアクセシビリティや違いの価値について語り合うサイドイベントを共催してきました。この締約国会議では、今回のトークイベントのスペシャルゲストであるシンガーの遥海さんと共にテーマソングのミュージックビデオを制作しました。
Q: 上映作『コーダ あいのうた』の感想はどうですか?TCFFの上映作として、この作品はどのような意味があると思いますか?
佐々:本作は、CODA(聴覚障害の親を持つ子供)として生まれ、健聴者とろう者の間で生きる主人公の成長や葛藤を描いています。彼女の家族の中では、ジョークも言い争いも、会話は全て手話で行われますが、言葉としての音はなくても、身振り手振りや表情、息遣いなど、体全身を使って豊かにコミュニケーションを行っており、その活き活きとした姿がとても印象的でした。
この作品の一番の魅力は、「障害」をステレオタイプとして描かないところにあると思います。親の期待と子どもの夢が食い違う、というのはろう者がいる家族に限ったことではなく、どんな家族の中でもごく当たり前に起こることです。物語は、個人が持つ「障害」やそれに伴う困難に焦点を当てるのではなく、ルビーと家族の関係、ルビーとマイルズの関係、ルビーと先生の関係など、あくまでもルビーとその周りの他者との関係性を中心に展開していきます。そうしたストーリーを観終わった時には、ろう者やCODAといった「分け方」が、一人の人間の一側面に過ぎず、その人の生き方や特徴を決めつける唯一のものではないということを強く感じました。
この映画は、「障害」や「多様性」のあり方に一つの形を押し付けるのではなく、多様なバックグラウンドを持つ人々のありのままの姿を描くことで、観た人それぞれの視点から「多様性の形」や「アートの持つ力」について考えるきっかけを与えてくれる作品ではないかと思います。
『コーダ あいのうた』アメリカ|2021年|112分|PG-12
配給:ギャガ GAGA★ © 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS
Q: 上映後のトークでは、『コーダ』のASL(アメリカ手話)監督との対談映像も準備されましたね。対談した感想などお聞かせいただけますか?
佐々:今回は、オンラインで『コーダ』のASL監督であるアレクサンドリア・ウェイルズさんにインタビューをさせていただきました。ウェイルズさんとのコミュニケーションは、ASL通訳の方を通して行われましたが、その表情や動きはとても豊かで、この映画に込めた思いや、私たちへの温かいメッセージがとても深く伝わりました。
特に印象的だったのは、「主人公やその家族のCODAやろう者という側面を強調するのではなく、彼らの経験を誰もが共感しやすいものとして描いた」というお言葉です。UNiTeメンバーが持つ、「カテゴリに囚われず、一人一人の違いや個性を前向きにとらえたい」という思いにも重なるところがあり、この映画に込められたメッセージの素晴らしさを私たちもより多くの人々に伝えていきたいと思いました。
ウェイルズさんは、終始笑顔で受け答えをしてくださり、とても魅力的な方でした。お忙しい中、私たちのインタビューのために時間を作ってくださり、本当にありがとうございました。
Q: UNiTeでは、SDGsに取り組むにあたって、映画を含めた文化・芸術にどのような力を期待しますか?
飯山:SDGsの「誰一人取り残さない」というコンセプトや、多様性を真の意味で理解して、自分の中に落とし込んでいくためには、表面的な理解ではなく、体験などを通じて、心に染み込ませるような感覚が必要ではないかと感じることがあります。もちろんそれは、それぞれの人生の中で、自分や周りの大切な人の苦しさや辛さ、また幸せや喜びを感じることによって、育まれていくものだと思うのですが、同時に、文化・芸術にはそれを擬似体験させてくれるような力があると思います。文字を読んだり、話を聞くだけでは分からなかったことを、文化・芸術は直接心に語りかけ、伝えてくれると思います。そして、普段忘れている感謝の気持ちや、自分の思いや力、新しい可能性にも気づかせてくれるものだと思っています。
アレクサンドリア・ウェイルズさん(画面右)へのオンラインインタビューの様子。(画面左から佐々さん、菅田さん、飯山さん)
Q: True Colors Festivalは多様性とインクルージョンを称える芸術祭として、特に海外に向けて「One World One Family(世界は一つの家族)」というキーワードでPRを行なっています。UNiTeの皆さんの考える「ワン・ワールド・ワン・ファミリー」について教えてください。
飯山:確かに人間にはいろいろな違いがありますが、どんな違いも些細な違いでしかなく、そしてその違いがあるからこそ、誰もがお互いに協力し合い、世界は成り立っているのだと思います。人種も、障害も、ジェンダーも、好きな食べ物も、持っている夢も、多様であるという点においては皆同じ、誰もが持っている些細だけれども大切な違いをお互いにリスペクトし合うことができる世界こそ、「ワン・ワールド・ワン・ファミリー」だと感じています。
菅田:障害や国籍といった「違い」を前にすると、無意識のうちに相手との間に壁を感じてしまうことがあるかもしれません。でも、私たちは本来もっと多様な側面を持っていて、一つの違いのみによってその人の特徴が決まることはないと考えています。
個人的な経験になりますが、コロナ禍においてオンライン上で一緒に活動をしてきたUNiTeメンバーの中には、長い間私に視覚障害があることを知らなかった人もたくさんいました。でも、その事実を知ったからといって、私たちが築いてきた関係性が変わるといったことは全くありませんでした。
特定の分け方に囚われることなく、違いや共通点、得意なこと、苦手なことなど全てを含めて、そばにいる相手の多様な側面に目を向け、その場のニーズに応じてコミュニケーションをとりながらサポートし合っていく。それこそが、ワン・ワールド・ワン・ファミリーなのだと思いますし、この上映会とトークショーがそんな世界の実現へ向けた前向きな一歩になれば嬉しいなと思っています。
東京大学UNiTe
飯山智史:EMPOWER Project共同代表
佐々俊之:東京大学UNiTe/ボイス・オブ・ユース JAPAN
菅田利佳:東京大学UNiTe前代表
文化・芸術を通して国連と東大を結び、持続可能な開発目標(SDGs)の「誰一人取り残さない」世界の実現に若者として貢献することを目指す学生団体。国連機関などと協働し、「協力者カミングアウト」を進める「EMPOWER Project」に取り組む。また、日本ユニセフ協会、UNICEF東京事務所とのパートナーシップの下、あらゆる若者が安全、かつ自由に様々な思いを共有するウェブプラットフォーム「ボイス・オブ・ユース JAPAN」を立ち上げ、運営している。