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True Colors FASHION「対話する衣服」は、ファッション教育に先進的なアプローチをとる「ここのがっこう」の学生・卒業生と、多様なモデルたちとのコラボレーションの過程を記録したドキュメンタリー。本作が世界中のフィルムメーカーを対象に毎月開催される映画&脚本のコンペティション「ニューヨーク・フィルム・アワード」でドキュメンタリー最優秀作品賞(2021年5月)を受賞しました。そこで、プロデューサーを務めた金森香さんにお話を伺いました。
True Colors FASHION ドキュメンタリー映像「対話する衣服」-6組の“当事者”との葛藤-:2021年3月5日から公開
Q: 作品賞受賞の知らせを受けて、率直な感想を聞かせていただけますか?
とてもうれしかったです。本作品は、モデルやデザイナーひとりひとりの感情のさざなみに向き合うドキュメントであり、出演者の言葉にうまくできない葛藤であるとか、日本語独特の表現なども出てきたかと思います。
翻訳にあたっては、True Colors Festival の日本チームと海外チームから多くの知見をいただき、また、翻訳に向き合う過程では河合監督の考え方もより深く理解しながら、議論をして進めました。
その結果として、海外にも伝わる表現となったのだと思います。この映像作品を作り上げた全ての関係者、出演者、お力をいただいた皆様に感謝いたします。
Q: 幅広いジャンルでプロデュース業をするようになったきっかけは何でしょうか?
はじめてイベントを企画したのは小学校1年生のときで、叔父に脚本を書いてもらい三人の従姉妹で芝居をしました。若い頃はチンドン屋など身一つの路上演奏などをしていましたが、26歳の頃に自分と仲間とでファッションブランドを立ち上げてからは、毎シーズンにファッションショーをやることを通じ、身体と街、身体と時代について考えて形にするのが生業になりました。音楽イベントやパフォーマンスイベントの企画もしますが、興味の中心は、言葉ではない「身体の迫力」であり、建物や戯曲を取り払っても、人間がそこにいることで立ち上がる「劇場」を軽やかに作り出すことです。
Q: True Colors FASHIONでは、どのような思いでプロデュースに取り組みましたか?
ファッションには、日常生活の延長線上に他人事ではない物語を感じさせる力や、アートに普段接する機会がない方々にも「身体芸術」をプロダクトを介して届ける力があります。
また、これまで何度か障害のある方々とファッションショーをつくる機会がありましたが、作り上げるプロセスにこそ、イベントそのものと同じくらい、あるいはそれ以上の意味があると感じてきました。今回は、障害当事者の身体性をめぐる対話と、服をつくるデザインプロセスをきちんと作品化させたいという強い思いで企画しました。
Q: ここのがっこうをプロジェクトのパートナーに選んだ理由を聞かせてください。
「ここのがっこう」が新しい価値観を開拓する力や好奇心をもった、新進の才能がうまれてくる学びの場だからです。山縣さんの指導と若い創造力があれば、制作のプロセスから大きな気づきと学びを導きだせるのではないかと考えたからです。そして、その若い芽は、今後のデザインやファッションの10年、20年を変えるかけがえのないきっかけになると信じています。
Q: モデルとデザイナーのコラボレーションの過程では、どんなことが印象に残っていますか?
ドキュメンタリー制作では、経過の対話をふまえての、モデルが作品を身につけた最後シューティングがもっとも印象的でした。それまで言葉でのコミュニケーションでは、踏み込めるところやそうでないところ、逡巡などもあり(そのことに意味があると思いますが)参加者にとって楽な道のりではありませんでした。でも、最後に服ができあがってモデルが着た瞬間にすべてを凌駕するような、モデルとデザイナーが相互に物語を投げかけ合うような言葉を超えた対話がそこに現れていました。
衣装合わせの時の様子。ヘアメイク担当者らも集まり、イメージを膨らませていった。
Q: True Colors Festivalでは、鑑賞体験のアクセシビリティの向上にも力を入れています。そのことがTrue Colors FASHIONにもたらした影響はありますか?
大量生産を前提していた時代に見過ごされていた、一人ひとりの個別の身体にどう向き合うかということ、また、世界へのアクセシビリティを保つために、テクノロジーが果たす役割や、そこに利便性だけでなくファッション性を持たせたときにどうなるか、を考えています。また、伝え方についても、ファッションを視覚以外の方法で伝えようと考えることで、音声ガイドや字幕などの表現としての可能性を広げるようなチャレンジをしたいと思っています。
Q: コロナ禍の影響を受けて、「対話する衣服」が完成しました。それにより世界中に届けることができるようにもなりましたが、本作を通して伝えたいメッセージはありますか?
多様な身体の迫力を通して、世界がそもそも多様であることをいまいちど思い出すこと、社会における多様性の重要さや、その鮮やかさに気づくこと。ファッションを通して、軽やかに偏見の壁を飛び越えること。
Q: True Colors Festivalは多様性とインクルージョンを称える舞台芸術祭として、特に海外に向けて「One World One Family(世界は一つの家族)」というキーワードでPRを行なっています。金森さんの考える「ワン・ワールド・ワン・ファミリー」について教えてください。
「ひとつ」という言葉は、多様性の反対のようにも受け取れますが、きっと、人種や障害などの壁をこえて、手を取り合えるということなのではないでしょうか?。他者を想像しても想像しきれない世界がひろがっているということを知りながら、それでも、だからこそ、隣人に語りかけたい、耳を傾けたい、そして人生のかぎり、他者との議論を楽しみたいと思います。
True Colors FASHIONドキュメンタリー映像「対話する衣服」-6組の“当事者”との葛藤-
金森 香
プロデューサー/THEATRE for ALLディレクター/True Colors FASHIONプロデューサー
1974年生まれ。出版社リトルモア勤務を経て、01年ファッションブランド「シアタープロダクツ」を設立し、広報・コミュニケーション関係の企画・マネジメント業務を中心に17年まで役員を務める。2011年一般社団法人DRIFTERS INTERNATIONAL設立。地域の芸術祭事務局や教育事業の企画などを行い、20年は渋谷スクランブルスクエアQWSでのオンライン講座シリーズをディレクションした。2019年「True Colors Festival – 超ダイバーシティ芸術祭 – 」ではディレクターとして広報・演目企画を担当する。2020年より株式会社precog執行役員/広報・ブランディングディレクター。2021年より同社でバリアフリー型のオンライン劇場「THEATRE for ALL」を立ち上げ、統括ディレクターをつとめる。