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True Colors Festivalをともに作る仲間を紹介する「Meet The Family(TCFファミリーの素顔)」シリーズ。2021年3月に公開したドキュメンタリー映像、True Colors FASHION「ドキュメンタリー映像「対話する衣服」-6組の“当事者”との葛藤-」に登場するデザイナーの一人・田畑大地さんの本作やファッションについての想いをご紹介します。
True Colors FASHION:2021年3月5日公開
Q: 田畑さんがファッションを学ばれた「ここのがっこう」は、「世界と自分自身の装いの原点に向き合いながら、ファッションを学ぶ」場所として、ファッション業界の中でも独自のアプローチで知られます。田畑さんが感じる自身の「原点」とは、どのようなものですか?
元々、絵や立体物を作るのが好きでした。ただファッションに関しては疎く18歳まではとにかくダサかったです。オシャレしたい気持ちはありましたが何を選べば良いのか全く分からず悶々としていました。やるせなさを感じて、服を選ぶのすら苦痛でした。自衛隊に入隊して自分で稼いだお金なら失敗してもいいと思うようになって、色んな服を手に取りました。自分の好みや何が良いものなのか見えてきてからは、靄が晴れたように世界がハッキリと見えたことを今でも覚えています。
白いドレスをフィッティングするモデルの葦原海さんと葦原さんの横についてドレスの調整をする田畑さん
Q: 今回ペアを組まれたモデルの葦原さんは、車椅子ユーザーで、モデル・タレントとしても活動されていますね。葦原さんのドレスのアイデアはどんな風にして生まれましたか?
葦原さんとの対話を通してイメージを膨らませました。彼女は元々オシャレをすることが好きで、足を失ってからもどんなファッションをすれば似合うか考えていたそうです。話を聞いた中でも印象的だったのは、「シェイプにメリハリを付けるためにウエストを絞る等の工夫をしていたけど、足でバランスをとるコーディネートが出来ない。上半身を着込むと野暮ったくなる」という葦原さんだからこそ感じるファッションの問題でした。
今世の中に溢れている服は健常者が着た時に美しく見えるようデザインされています。葦原さんのような身体的特徴のある人が着た時に美しく見える服のデザインとは何かと考え、思いついたのが、足があると付けることが出来ない《足の切断面に装着するアクセサリー》でした。アクセサリーのパールの先には沢山の靴をつけています。これは花嫁を送り出すためのウェディングカーに垂らされた靴をイメージしています。(空き缶の代わりに父親が娘を花嫁へ送り出すために娘が使っていた靴をつける地域もあるそうです)葦原さん自身も事故以前に靴を沢山持っていたと聞いていたので、そこでイメージが繋がりました。過去の自分が新しい自分を未来へ送り出す、そんな意味を込めました。
Q: 葦原さんからはどんな返答がありましたか?
デザイン画を見たときに、葦原さんは人魚のようだと思ったそうです。「人魚は声を失った代わりに足を得た。私は足を失った代わりに声を得た。私は自分自身を人魚に重ねているんです」と話してくれたのが印象的でした。僕は服を選ぶ楽しさを知ってから世界が変わって見えました。今回の葦原さんのための創作は、人魚から人への変身、事故以前の葦原さんから車椅子ユーザーになった葦原さんへの変身を重ね合わせました。撮影の際に衣装を着た葦原さんが浴槽に浸かっていて、想像以上に人魚に見えたことが強く印象に残っています。
Q: 制作期間はどれくらいですか?葦原さんとの制作過程で、田畑さんが直面した課題などがあれば教えてください。
大枠のデザインを構想するのに2ヶ月かかりました。当初考えていたデザインから変更したところもあります。葦原さんの身体を美しく見せるファッションデザインのリソースが歴史的にも全く無かったので、ミロのヴィーナス等の欠損した石像のリサーチもしました。実物を仮組みしたり、実際に葦原さんに着てもらって印象を確認したり、今回のプロジェクトならではの大変さがありました。アクセサリー接合部の切断面の型取りをするにあたり、知り合いの義肢装具士さんに相談したこともありました。
Q: 葦原さんとのコミュニケーションの中で印象に残っていることはありますか?
葦原さんと初めてお会いする前に、車椅子ユーザーならではの服選びのポイントや不満に感じていることをネットで下調べしていました。しかし実際に話を聞くと調べたことが全て当てはまるわけではなく、車椅子ユーザーの中でも人によって脱ぎ着に影響してくるポイントやこだわりに違いがあるということを知りました。無意識に障害者のテンプレートを探していた自分が恥ずかしくなりました。「葦原海という個よりも、車椅子ユーザーというイメージが先行しているように感じるか?」という僕からの質問に対して、葦原さんは「気にしたことはない」とおっしゃっていました。僕は葦原さん個人と対話したいと思っていましたが、気づかないうちに僕もまた、”車椅子ユーザー”という先入観で彼女を見ていたのだと気付きました。
白いパール状のアクセサリーを取り付けている様子
Q: 今回のドキュメンタリーへの出演を通して伝えたいメッセージはありますか?
世の中は少しずつ多様性を尊重しようという動きが広まっていると感じています。多様性を語る時には健常者と障害者との違いに目が行きがちですが、その違いを知っただけではまだ不十分だと思います。僕が葦原さんに気付かされた様に、まずは違いを知って、理解して、尊重するという三段階のステップが必要だと感じています。今回のプロジェクトが違いを知って理解する良いきっかけになればと思います。
Q: True Colors Festivalは「One World One Family(世界は一つの家族)」として、多様性とインクルージョンを称える舞台芸術祭です。田畑さんの考える「One World One Family」について教えてください。
日々生活をしていると人に迷惑をかけてしまう人を見かけます。以前の僕はそれを見ると怒りの感情を抱いていました。ですが、娘が生まれてからは、そんな人を見ても自然と許せるようになっていました。電車で隣にいる人も、今日すれ違った人も、皆はじめは赤ちゃんだった、という考え方をするようになりました。
全人類を愛するという大層な話ではなく、少し想像して周りをみてみよう、ということだと思います。知らない人も対話を通して分かり合える部分があるはずだ、という希望を感じます。
田畑大地
1989年生まれ、沖縄県出身。 陸上自衛隊、映像制作の経験を経て 2017年より「ここのがっこう」に通う。家族や自己との関わり、自衛隊での体験、それらを服で表現している。 フェスティバル/トーキョー19『移動祝祭商店街』の衣装を担当。『1 GRANARY ”Designers to Hire 2020″』に参加。