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True Colors ACADEMY

まとうことで、社会と自分のままならなさを解放する

「好きな服に着替えるように、好きな自分を『まとう』事ができたら」
ふとそんなことを思ったことはあるだろうか?
家族の中での自分、会社での自分、仲間内での自分、今ここにいる自分。
無意識のうちに固定している自分の役割や姿から解放されたいという願望は
誰もが一度は感じたことがあるのではないだろうか。

アートを通じて色々な個性が出会い、障害・性・世代・言語・国籍などのあらゆる多様性があふれ、皆が支え合う社会を目指す『TRUE COLORS FESTIVAL -超ダイバーシティ芸術祭-』(主催:日本財団)。そのプログラムのひとつである、True Colors ACADEMYでは、日常の「違和感」や「ズレ」をテーマに様々な分野のゲストをお呼びして普段話しづらいこと、言葉になりづらい感覚を思考してきた。

本インタビューではアカデミーで取り組んだテーマのひとつ「アイデンティティ」を題材に、スペシャルゲストをお呼びしてお話を伺った。ここでは「姿とアイデンティティ」を軸に、別の自分をまとうことで出会う新たな自分の側面や世界について考えていきたい。

ゲストには、VTuber(※)としてバーチャル空間でバーチャルマーケットを企画・実施し、その活動すらもVRでリモートワークをしている「動く城のフィオ」さんと、“誰かが作ったアニメキャラ”ではなくオリジナルなドールタイプのマスクを製作している2人組のユニット「ひょっかめ」さんをゲストに迎える。

(※)VTuber……ブイチューバー。バーチャルキャラクターのYouTuberのこと。

プロフィール

ひょっかめ:「ひょっかめ」というユニット名は、古来から伝わる有名なお面「ひょっとこ」と「おかめ」をつなぎ合わせたものです。 2015年秋より活動を始め、現在まで製作したマスクの数は50個以上になります。 従来のいわゆる「誰かが作ったアニメキャラになりきる」目的ではなく、 それぞれの感性で自由にオリジナルキャラを楽しめるようにしたいと思い、 作品制作だけにとどまらず啓発活動なども力を入れています。

http://hyo105.main.jp/

動く城のフィオ:バーチャルマーケット主催、VR法人HIKKY取締役CVO。バーチャル空間でのイベント企画を中心に活動。2018年8月、バーチャル空間内のマーケットフェス「バーチャルマーケット」を立ち上げる。年に2度のペースで開催を続け、第3回となる2019年9月のVケット3では70万人の来場者を動員。バーチャル空間の生活とアバター文化の先鋒を切り拓く、小さい身体に大きな夢を持った妻子持ち美少女おじさん。

https://www.hikky.life/

姿を変えて社会との接点を取り戻す

石川:
フィオさんもひょっかめさんも、“リアル”な世界の自分とは別のキャラクターを「まとう」ことで、生きる社会を切り替えたり、生き方を変換していると思います。一方で、物理的に何かをまとっていない人も、誰しもがその人自身の中に複数のアイデンティティを持っていると思います。今回のレクチャーはその姿とアイデンティティがテーマになっています。まずはそれぞれの活動と、どのような経緯で今のような姿を始めるようになったのかお伺いしたいです。

ひょっかめ(あや):
制作メインのたくろうと、メイクや衣装のスタイリング、外部発信を担当しているあやの2人で活動しています。もともとはたくろうが一人でやっていたのですが、衣装やメイクは女の人がやったほうがリアリティが増すのでは?と思い、私が参加したという流れです。

美少女着ぐるみ、ドーラー(被り物をまとって活動する人)の活動は2000年頃に始まり、もともとアニメキャラクターのコスプレといったかたちが多かったですね。対して私たちがつくるマスクは、何かのアニメキャラになるということではなく、自分の姿を大きく変化させるツールという位置付けです。

石川:
なるほど、たくろうさんはいかがですか?実際にマスクをかぶるようになり自分や周囲の変化は何かありましたか?

ひょっかめ(たくろう):
子どもの頃から着ぐるみを着たいという気持ちがあったのですが、恥じらいがあってなかなか出来ませんでした。でも大人になりある雑誌で美少女着ぐるみの活動をしている人を知って、自分もやってみようと。幼少期にアイデアはディテールまでたくさん描いていたので、それを現実にしていくのは楽しくて、恥ずかしいとかそんなに悩むほどじゃなかったな、と思いました。

いざ着てみると、意外に同じ趣味の人と出会えたし、彼・彼女らとの交流が嬉しくて。もともと僕は容姿や身体的なことにすごく固執していた時期があって、自分で勝手に過大な意味をもたせていたようなところがありました。でもマスクをかぶると憑き物が落ちたようにすっきりして、自由な感覚になったんです。普段こだわっていたことが大したことじゃないと思えて、そのこだわりは自分のもののようで、マスクをかぶるとどうでもよくなるというか。見た目はまるでいつもと違うので「自分」ではないし、かといってまったくの別人という感覚でもないんですけどね。

丹原:
フィオさんの現在の活動を教えてください。

フィオ:
2018年2月から、VRの世界の住人としてVTuberの活動や「バーチャルマーケット」というフェスの主催をしています。2017年末頃からVTuberが登場して同タイミングでVRチャットというプラットフォームが生まれ、ヘッドマウントディスプレイをかぶりバーチャル空間でアバターをまとって生活する、というスタイルが流行ったんですね。自分もVRの世界は面白いと思い、もっと色んな人に広めたい気持ちで活動を始めました。色々な企画をするうちに、楽しいだけじゃなくこれはビジネスになるのではと思い、現在僕が取締役CVOを務めている「VR法人 HIKKY」に参加してVRでリモートワークをしています。

丹原:
VRの世界を選択した経緯やきっかけは何だったんですか?

フィオ:
VR空間では、自分がつくったものが手の中におりてくるというか、現実世界でつくれない世界もつくれるし、なりたい姿にもなれる。バーチャル空間なら国家もつくれると言う人もいて、そんな可能性のある場所なら行ってみたいというのが発端です。当時僕は体を壊し休職中で、好きなことも全然できずに動けなかった。でもVRって面白そうだなと奮起できたんです。今も現実では人混みがしんどくて外出や人と会うことが厳しいのに、いざVR空間にアバターのフィオの姿で降り立ったら、色んな人と交流できた。鬱になって、携帯のアドレスもLINEもSNSも削除し、電話も出なくなって、でもVR空間で社会とのつながりを取り戻しました。僕は今妻子がいますが、フィオの姿や人格を通して仕事をして、生計を立てることができています。

バーチャルと現実の交差点

石川:
フィオさん、先ほど約8割VR上で生活しているというお話を伺ったのですが、バーチャルでの活動が主軸である今、リアルな生活に何か影響や変化はありますか?

フィオ:
戸籍の名前での社会との接点ってゼロなんです。オンラインならフィオの名前で活動し、オフラインでは家族かとても近い関係性の友人とのつながりしかありません。基本的には外に出ないし、バーチャルで出勤しているので会社のメンバーとも顔を合わせません。それで生活できるの?と思われるかもしれませが、僕は特段デメリットは感じていないですね。むしろ現実空間のデメリットってあるじゃないですか。僕の場合は対人恐怖症で人の目をみて話すと手が震えるのですが、バーチャルなら目の前にいるのはアバターだから、現実の人を前にした時の恐怖感は起きないし、物理空間関係なく全世界の人と会って話せます。現実のデメリットを解消する効果の方が、自分には大きかった。仕事面でも、HIKKYのメンバーに「バーチャル空間で生きる」という新しい選択肢に共感してもらい、リアルオフィスのメンバーと役割分担してチームづくりができています。現実で仕事を切り開きバーチャルで発信する現実世界の人、その逆も然り、という両輪でまわる仕組みがHIKKYにはあります。僕のようなタイプの人ってVRの世界には割といます。まだみんながバーチャルだけで生きていくのは難しくてどこかでリアルとの接点をもつことが必要だけれど、僕のような選択肢が増えたらいいですね。

丹原:
ひょっかめさんの、マスクの人格と自分自身の関係性はどんなものでしょうか。

ひょっかめ(たくろう):
活動前、着ぐるみの外側から見た時に、中の人はどういうこと考えているのかがすっっっごく気になってたんです。でも聞いたらそれまでで、聞いたらつまんないだろうなとなんとなく思っていた。だったら自分で体験してみたいなと思って、マスクの人格は自分もモデルになっています。フィオさんはまったくの別人格としてアバターをつくっていますが、僕の場合は完全に別ではないですね。

ひょっかめ(あや):
VRカルチャーはまだ新しいけれど、美少女着ぐるみのカルチャーは20年くらいはあるので、「美少女の中の人がおじさんであることが知られてはならない」という暗黙の了解のようなものがあるんです。着ぐるみかぶって自分の肉声でバイトの話をするなんて、相手はがっかりするなんて固定観念があるけど、私は初めてそういう状態になった時意外に大丈夫だった。そのファンタジーにこだわるなら、マスクと中身どうこうというより、マスク自体のクオリティをある程度まであげないとっていう気持ちですね。

ひょっかめ(たくろう)

バーチャルだと違和感なく完全に可愛い姿を維持できるけど、現実だと身長とか手の血管とか、細部に見て取れるものが現れちゃうんです。そこをなんとかうまくごまかして可愛いと思われるくらいの状態をキープすることに面白みを感じるし、追求したいですね。

石川:
最後に一言メッセージをお願いします。

ひょっかめ(あや):
たくろうはマスク製作を始めた頃は、今でいう自撮りで、脳内のイメージに準じて最高のものをつくろうと1人で撮影していました。でも今イベントに出たりしているので、パブリックで誰かが撮影できる状況です。すると、必ずしもイメージ通りの可愛い瞬間を撮られるわけじゃない。でもベストを尽くしたい。でも他人をコントロールすることはできない……という葛藤がありました。結果、撮影場所をセッティングしたりして理想のアウトプットになるように促したりしています。そもそもは、プライベートな活動として着ぐるみをつくって着ぐるみを着て楽しんでいたのに、それがパブリックな方向にいま向いているのは面白いなと思います。今後も私たちの活動が、未知の文化と文化の橋渡しみたいなことにつながったらいいなと思います。

フィオ:
私は自分でVRカルチャーを伝道する使命を感じているのですが、自分の容姿にコンプレックスを感じていたり物理世界に生きづらさを抱えている人に向けて、バーチャル空間にはもっと生きやすい環境があることを伝えたいですね。僕は、ままならなさを感じながらVR空間で解放されたので、行き詰まりを感じている人にぜひ楽しい世界を知ってもらえたら、と思います。

それぞれのままらなさを抱えながら自分の存在と社会との関係でに姿を変えることで折り合いを見つけたひょっかめ さんとフィオさん。彼らの活動は趣味的な活動の域を超え、多くの人に影響をもたらし始めている。この活動の根底には何かを生み出したいというクリエイションへの想いが強く感じられた。彼らの創作がまた誰かの可能性や生き方を見つける選択肢となっていくだろう。

執筆:原口 さとみ , 編集:石川 由佳子

True Colors Festival

歌や音楽、ダンスなど、私たちの身近にあるパフォーミングアーツ。

障害や性、世代、言語、国籍など、個性豊かなアーティストがまぜこぜになると何が起こるのか。

そのどきどきをアーティストも観客もいっしょになって楽しむのが、True Colors Festival(トゥルー・カラーズ・フェスティバル)です。

居心地の良い社会にむけて、まずは楽しむことから始めませんか。

障害の有無は関係ありません

イルアビリティーズ創設者・マネージャー/ True Colors DANCE出演者

ルカ・レイジーレッグス・パトエリ

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