Vol2.:True Colors CARAVAN出発!知ることからはじまる旅の楽しみ方と、パフォーマーもスタッフも、関わる人たちが影響し合う舞台裏について聞きました
Vol.2:True Colors CARAVAN出発!知ることからはじまる旅の楽しみ方と、パフォーマーもスタッフも、関わる人たちが影響し合う舞台裏について聞きました
いよいよTrue Colors CARAVANが出発します!
こんにちは。True Colors CARAVAN広報チームの平原です。
パフォーミングアーツで全国を旅する“True Colors CARAVAN(以降CARAVAN)”が、2022年4月21日の出発式からいよいよスタートします。
マガジンでは、CARAVANの見どころや関わる人たちの声、各地でのレポートなどをお伝えしていきたいと思います。
今回は、企画の根っこを支える方々にお集まりいただきました。
-
みなさんお茶目
写真左上からCARAVANを主催する日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS パフォーミングアーツ事業部部長の森 真理子さん、お隣は企画・クリエイティブディレクションを担うWRの森下 ひろきさん。
左下は演出・振り付け担当の伊豆 牧子さんと、演出・パフォーマーとしても出演されるDAIKIさんです。
みなさんにTrue Colors CARAVANのコンセプトや、関わる人たちのこと、パフォーミングアーツの楽しみ方について聞きました!
花のように、上を向いていこう
-
-長い時間をかけて準備を進められてきたCARAVANがいよいよ始まります。出発式の前にお集まりいただけたこの機会に、CARAVANの目的やコンセプトについてお聞かせください。
-
森さん
まずCARAVANは、2019年に始まったTrue Colors Festival - 超ダイバーシティ芸術祭のプログラムの一つです。True Colors Festivalは、障害や性、世代、言語、国籍など、さまざまな背景を持つ個性豊かな人たちの社会参加を、アートの側面から推進し、広く知っていただく取り組みです。
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会とともにダイバーシティ&インクルージョン(以降D&I)推進の社会的な機運を盛り上げようという挑戦でもありました。
オリパラが終わって、さてこれからどうしようと考えた時に、「さまざまな人と一緒に居心地の良い社会を作り生きていく価値観を、途絶えさせず広めていく」という意志は変わりませんでした。
-
森下さん
コロナ禍ということもすごく大きくて。人と人も、国も世界も、まちも地域も分断されました。こんな時だからこそ、会いにいかなきゃいけないって感じたんです。
パフォーミングアーツそのものがライブだし、関わる人と人の間で生まれる出来事には心を動かす力がある。そこにいる人たちがパフォーマンスを見て心を動かされることが種まきのような役割になって、その体験が心や日常の中に花や草木を咲かせていくんじゃないかなと。いまだからこそ生まれた企画がTrue Colors CARAVANでした。
-CARAVANではこの春、東京での出発式を皮切りに札幌、仙台、名古屋、⼤阪、広島、福岡をめぐり、秋には東京でTrue Colors CONCERTも予定されています。全国に行こうと考えた理由は何だったのでしょう。
森さん
True Colors Festivalの各種イベントは、当初東京都内を中心に開催されてきました。振り返ってみると、日本の各地域での展開はなかなかできなかったので、全国で展開できないかなと。
日本財団が昨年行った意識調査(参考:「ダイバーシティ&インクルージョンに関する意識調査 」)でも明らかになったのですが、D&Iの広がりには地域差があると感じています。オリパラが開催され、情報も集まりやすい東京と比べると、まだまだ情報が行き届かない地域もあるだろうと。日本の各地にD&Iの価値観を運び、その道筋をつくるのがCARAVANの役割だと思っています。
キービジュアル 撮影:安彦 幸枝
-True Colors CARAVANのキービジュアルでは、バスの轍に色とりどりの花が咲き、その先にパフォーマーのみなさんが立っています。
森下さん
企画が始まった頃に、伊豆さんが「上を向いていくような企画にしたい」と言ったんです。そうしたらコピーライターの安藤 寛志さんが「花は上を向いて咲きますよね」って。
花はすぐには咲かないけど、僕らがいろんな場所を訪ね、行った先々の方々にパフォーマンスを見ていただくことで、そこにいる人たちの心を動かすことができたら、たぶんそれぞれの心の中に体験という種が蒔かれ、いずれは僕らも見たこともないような花が咲くんじゃないかなと。それでバスの轍のところに花が咲いているビジュアルへとつながりました。
-
伊豆さん
コロナがあって、舞台で発表する人たちも人前に立つ機会を一気に失いました。どうしても先が見えずなかなか上を向けない体験があったからこそ、湧いてきたイメージだったと思います。
コロナがなかったらずっと前に歩き続けていたかもしれないけれど、こうして立ち止まった時に、いろいろ見て、誰かとつながって、幅を広げていこうという発想になったのかな。
まぜこぜになって、知ることから学び合う
-
ビタミンカラーのスクールバス
森下さん
True Colors CARAVANは、学びをテーマにしたラジオ番組「SCHOOL OF LOCK! 」とコラボレーションすることもあり、スクールバスで全国行脚します。このバスもCARAVANの象徴というか、印象的なモチーフになるんじゃないかな。
僕らを含めてパフォーマーも地域の人も、参加する人みんなで学び合うことができる機会になるんだろうなと感じています。運営チームの中でもそれははじまっていて。ちょっと脱線するけどいいですか?
(一同)
聞きたい!
森下さん
CARAVANのキービジュアルを撮影するためロケに行ったときに、車椅子を利用するメンバーもいるので、駅で新幹線の多目的室(個室)を予約したんです。その時「事前に電話予約をしてないですよね、いまから手配するので待ってください」ってなって、予約に2時間くらいかかってしまいました。しかも、「障害者手帳の現物がないとこの場では割引できません」なんていうルールもあって……。
新幹線の個室を取るのがこんなに大変だと知らなかったし、今回のように仕事じゃなければ、障害者やそのご家族が準備しなくちゃいけない社会の現状にショックを受けました。
車椅子ユーザーのかんばらさんや啓太くんは「今まだこんな感じなんですよ。大変ですよね」「困ったら俺に言ってね」って逆に慰めてくれて。色んな意味ですごいなって思いました。
-
DAIKIさん
森下さんが現場で苦戦しながら「そうなんだ……」って、障害のある社会の現状をどんどん知ってくれている姿を見て、実は僕は安心したんです。障害のある人も相手がそういった状況を知っていて当然ではないし、サポートする人も同じで。それに、障害があるからといってほかの障害のことがわかるわけでもない。知らないから知っていくところからスタートして、話し合える環境があったあの瞬間が、ほんとに素晴らしかった。こういうチーム自体があんまりないから。なんか愛があるじゃないですか。
森下さんの顔はほんとにせつなくて忘れられないんですけど(笑)
森下さん
泣きそうになって上を向いてましたよ、涙がこぼれないように(笑)
-
森下さん
そもそもなんでこんな大掛かりな撮影ロケで砂丘を選んだんだって話もあるんですけどね(笑)
車椅子を担いで現場を移動したこととか、靴の中は砂だらけだったこととか。みんなが力を合わせなくちゃいけなかったし、誰一人欠けてはいけない現場で。めちゃくちゃ大変な現場だったけど、なんかいいなと思いました。
-
砂丘にて撮影の様子
-
伊豆さんもコピーライターの安藤さんも花を活ける
森下さん
はじめは外から見ていても、気づいたらいつの間にか参加していて、自分も当事者の一人だとわかる感覚。それこそがCARAVANでも伝えていきたい「心や日常の中に花が咲いていく瞬間」なんだろうと。
DAIKIさん
そういう時間があって積み上げていくものですよね。
いまここを身体で共有するパフォーミングアーツ
-
-CARAVANの軸となるのがパフォーミングアーツですが、パフォーミングアーツのことを知らない人に、みなさんならどうやって説明しますか?
森さん
ひとことで言おうとすれば、身体表現、そこに身体が伴う表現だと思います。もう少し掘り下げてみると、身体がある、時間がある、始まりと終わりがあるものかな。
生のパフォーマンスを共有しながら、隣の人の息づかいや、一緒にいる人との関係性によっても見え方が変わってきて。それは必ずしも感動だけではなく、疑問が生まれたり、なにか嫌な気持ちになって帰っていく人もいるかもしれません。それも含めて心動かされる場を作り手と受け手が共有するのがパフォーミングアーツだと思います。
-
伊豆さん
いまここにあること。いまここで起きている、ということかな。
パフォーミングアーツは生きているものだと思います。同じことを翌日やっても、同じ作品を見ても、心のあり方に変化があって、毎回絶対同じにはならない。心に対する刺さり方の多様さが、パフォーミングアーツで味わえる贅沢なものだと感じています。
-アンバサダー対談では、ryuchellさんが「TCFは当日がピークというよりは、少しずつ影響の輪を拡げていくのが似合うじわじわ系フェスティバル」だとおっしゃっていました。
森さん
これまで色々な舞台に携わってきましたが、TCFでは、特にアクセシビリティやD&Iを強調しています。そういう場って、例えばアクセシビリティを高めようとすれば、時間もお金もかかる場合が多く、作るのも簡単ではありません。
本来はことさら強調する必要もないと思うのですが、あえてそれをやる意味は、社会の現状がそうはなっていないから。不便さや不自由を感じる人が行こうって思えるイベントづくりをすることが、これからの一つの社会のあり方を提示していると思います。見た人の心の持ちようにちょっとした変化がうまれ、自然発生的に広がっていけばいいなと。まさにじわじわ系ですね。
伊豆さん
「これ何だろう」「こういう表現があるんだ」って触れることが、誰にとってもはじまりの一歩だと思います。
True Colors CARAVANパフォーマーの素顔
-
True Colors CARAVANパフォーマー 撮影:安彦 幸枝
-CARAVANでは、7名のパフォーマーを中心に各地をめぐります。みなさんのご紹介をお願いします。
-
真ん中にいるのが、かのけんさん
DAIKIさん
プロフェッショナルという意識を大事にしているメンバーだと思います。
かのけんは、陽気でチームのムードメーカー的存在。いろんなジャンルのダンスや役者、ディレクターもしていて経験豊富です。聴覚障害があって、補聴器をすれば音が取れる、マスクがなければ相手の口元を読み取ることもできますが、ディスカッションになるとついていけないし、へとへとに疲れるって。そこへの配慮は必要です。
作品では、音だけに頼らずカウントやきっかけをつくるなど、それ自体が魅せる演出にできたらいいねと話しています。 -
伊豆さんとDAIKIさんの間にいる徳永 啓太さん
啓太くんは、ビートメーカーです。CARAVANではDJや音楽づくりをしてくれています。パラリンピックの開会式でDJをしていたのでご存じの人も多いかも。不器用な人間ですけどね(笑)根はすごくやさしくて。いろんな角度からアートを伝えるための相談をすると、「やったことないことも楽しみたい」と言ってくれていて、これからさらに関係性が詰まっていくのが楽しみです。
-
HARUKIさん
HARUKIはダウン症のあるビートボクサーです。実は、彼が16歳の時から知っているんです。そのときからマイクを使ってパフォーマンスするのが好きで。5年ぶりに再会したら背が伸びていてびっくり。先日のロケでも、はじめて会う人と仕事して、タイトなスケジュールの中撮影に臨んで。親元を離れて宿泊するのも初めてだったそうです。彼の成長ぶりに親父みたいな気持ちになってますね(笑)いまかっこいいものができていて、HARUKIにはこのCARAVANで一番化けてほしいです。
-
テコエ 勇聖さん
ダンサーのテコエくんは、先日のロケで「俺がHARUKIを迎えに行く」と手を挙げてくれました。ツインの部屋に泊まって、声かけや体調管理に気をくばって、メンバーに状況を共有してくれて。僕の身体で振り付けを教えると、みんな動きが小さくなっちゃいがちなんですけど、「こんな感じですか?」って僕の代わりに振りをやってみてくれたり。一緒に作っていることに感謝しています。
-
Eriさん
Eriさんは、ニュースタイルハッスルのダンサーです。障害のあるダンサーって、どこまでいっても障害がついてくる。悩みもきついときもあるなかで、Eriさんは障害だけに照準を当てすぎず、プロダンサーとしての視点を共有してくれる心強い存在です。
-
かんばら けんたさん
かんばらくんは、コンテンポラリーダンサーとして唯一無二の車椅子パフォーマンスを確立しています。オリパラの式典にも3大会出ているし、日本の障害のあるダンサーといったら彼の名前が挙がるでしょう。僕にとってはライバルというよりは戦友みたいな感じです。リハでも振り付けのイメージを聞いて積極的に意見をくれていて、プロだなと感じています。
-
DAIKIさん
僕はストリートダンスをやってきました。僕と同じ低身長症のクランパーって日本にいないんです。どこにも属さないっていう感覚をもってきたかな。
僕の場合は、軟骨無形成症といっても障害者手帳は持っていません。それでも日常生活で苦戦することもあります。まきさんが思いついた振り付けも「僕にはきついかも」っていうときもあって。プロとして大事にしているのは、僕の障害について知らない、わからないと言ってくれるからこそ、できないことがあったらそれを相手に言葉で伝えなくちゃいけないということ。「この振りはちょっと難しいです、でもこれなんかどうですか?」って、一緒に作っていくことを大事にしていますね。
-
森さん
私、何よりもDAIKIくんのみんなの説明に感動した。すごくよく見て分析もして。
DAIKIさん
人が好きだから細かく見ちゃうんですよね。知りたくて。このチーム、最強じゃんと思うので。すごくワクワクしています。
-
-伊豆さんは振り付けを進める中で、どんなことを意識されていますか?
伊豆さん
このメンバーで何ができるのかなっていうところからスタートしています。みんなバラバラな人たちが一緒になってパフォーマンスをする、いろんな場所に種を巻いていくことを大事にしていて。
「初めての場所に来たときってどういう感覚?」とか、「これで動いてみてDAIKI」って無茶振りしながら(笑)
DAIKIさん
ほんとに無茶振りなんですよ(笑)初めましてでそれだったので「えっ……」て。
森下さんもね、ダンサーじゃないのに踊らされてますよ。普段着で(笑)
森下さん
汗だくになって。
伊豆さん
引き出しを開けながら、こういうことができるかなって探しながら作る感覚で。なかなかそれは時間がかかるんですけど、いままで見たことがないものが作れる面白さをいつも追求しています。
今回のメンバーは無茶振りに対しても身体でそれぞれの答えを見せてくれて。やっとみんなの身体性や在り方、動きがわかってきたかな。いい方向性のルールや軸となる部分だけは提示しつつ、身体も違うし、これまで生きてきたプロセスも違うので、動きを揃えるというよりは、一緒にひとつのことをやることがすごく大事だなと思って臨んでいます。
-
森下さんは巻き込まれがち
-最後に、パフォーマンスを見る人にはどんな楽しみ方や参加の仕方があるのか教えてください。
DAIKIさん
各地を2日間ずつめぐるのですが、どなたにでもご参加いただけるステージ本番は2日目にあります。1日目は各地域のダンススタジオの方と前日リハーサルという形でワークショップも行う予定で、コミュニケーションをする時間をもちながら、翌日のステージでセッションできることを一緒に考えられたらいいな、と思っています。
伊豆さん
本番ではコールアンドレスポンスとか、たまたまステージを通りかかった人も参加できるようにしたいなと考えています。全員でその場を共有したいから、スタッフさんにもやってほしいですね。
森下さん
また巻き込むんですね……。
伊豆さん
普通のステージでは、スタッフはあくまで裏方というのがあると思うんですけど、スタッフさん自体も参加できちゃう雰囲気になれば、あったかい感じになるんじゃないかな。ね、森下さん!
森下さん
……やります!
DAIKIさん
次は動きやすい服装で!(笑)
プロフィール
DAIKI(だいき)さん
ダンサー、パフォーマー
神奈川県出身。クランプダンサー。SOCIAL WORKEEERZ 2代目代表。日本人初の低身長症クランパー。14歳の時にクランプと出逢い、バトル、舞台を中心に活動。パラストリートアジア大会優勝。番組、CMなど多数出演。保健体育科教員免許保持者として身体表現の可能性を伝えている。
伊豆 牧子(いず まきこ)さん
演出・振付家、ダンサー
長野県出身。1994年水戸芸術館にてコンテンポラリーダンスと出会い、2000年秋より一年間渡仏。帰国後伊藤キム+輝く未来、GRINDER-MANを経て現在はフリーで活動。パフォーミングアーツとは、生きたからだの表現。ひとりひとりが持つこころとからだで、そこにある空間と時間を作り出すことを目指す。
森下 ひろき(もりした ひろき)さん
クリエイティブ・ディレクター / 株式会社ダブリューアール代表
大阪府出身。クリエイティブ起点でコミュニケーションをデザインし、体験型のプロジェクトなど多数プロデュース。クライアントワークから独自のプロジェクトまで幅広く活動中。カフェ・ギャラリーやWebメディアの運営も手掛ける。
森 真理子(もり まりこ)さん
日本財団DIVERSITY IN THE ARTSパフォーミングアーツ事業部部長。
愛知県出身。美術館等での勤務を経て、京都造形芸術大学 舞台芸術研究センターにて舞台制作を担当。2007年より、フリーランスで演劇・ダンス・音楽・美術の企画制作・プロデュースを行う。2009年より「まいづるRB」ディレクターを務め、地域と連携した事業を実施。「六本木アートナイト2014」や「さいたまトリエンナーレ2016」のプログラム・ディレクターなどを務め、フェスティバル事業に携わる。2019年よりTCFプロデューサーとして、フェスティバルの全体統括を行う。
パフォーミングアーツってなんだろう。そんな状態からお話を聞いて、True Colors CARAVANでのそれは、参加の輪を限りなく広げ、垣根を壊して舞台だけでなく人の心にもスロープをかけちゃうようなものなんだと受け取りました。
演じる人と見る人の境界線がまざりあった時、そこから何が生まれるのでしょう。これからはじまるCARAVANの旅に広報チームも同行して、しかと見て発信していきたいと思います!
取材・執筆:平原 礼奈(True Colors CARAVAN広報チーム)
取材撮影:鈴江 真也
ロケ画像提供:森下 ひろき
取材日:2022年3月31日