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――True Colors MUSICAL『ホンク!〜みにくいアヒルの子〜』のサブタイトルに、「変換(原文:Transform)」という言葉がありました。この表現にはどんな想いが込められていますか?
童話『みにくいアヒルの子』の終盤では、醜いと言われていた“アヒルの子”が実は白鳥の子で、大人になって美しい姿になりますよね。しかし、ファマリーの製作では、主人公アグリーの成長にあたって特段容姿が変わる演出はしていません。羽のついたストールを外すだけです。キャラクター自体にフィジカルな変化はなく、観ている人たちのマインドの方が変わる――そういう「変換」を伝えたかった。アグリーは生まれた時からugly(醜い)ではなく美しいのです。
「アンチエイジング」という言葉や、ランウェイを歩くファッションモデルのボディラインでもわかるように、どこの国でも人が「美しい」と思うアイデアは歴史的にとても限定的です。世の中に溢れる様々な物語は、一つの視点でしか語っていないことが多い。私は、原作がある作品に挑戦する時は、「何が美しいのか」という視点自体を掘り下げることを考えています。もともと全ての人に価値がある、ということに人々が気づくことこそが、重要な「変換」なのです。
――「気づく」という変換を社会に起こすために重要なことは何だと思いますか?
肌の色や障害の有無、言語の違いなど、何か自分と異なるものに対して否定したり壁をつくってしまうのは、理解できなくて怖い、とネガティブに捉えてしまうからだと思います。
私たちの劇団では、そういった問題を「怖くない。違うことは面白いよ!」とクリエイティブに伝えようとしています。例えば私は車椅子で移動しますが、人の身体は楽器のようなものだと思っています。楽器は、吹いたり弾いたり叩いたり、種類によって演奏の仕方が違いますよね? 自分自身をうまく扱い、自分にしか演奏できない音楽を演奏する、と自分が自信をもって行動すれば、人は自分の価値、ユニークさを素晴らしいと理解してくれるんじゃないかと思っています。
パフォーミングアーツで大事なことのひとつは、「人の前に人が立っている」ということです。そして演劇は、物語を語る、ということをします。つまり、誰かの人生を語り、その人生の意味を見出すのです。なのに舞台上に立つ人の身体が1種類しかなかったら、本当の世界の複雑さや多様性は伝えきれません。
私自身、交通事故に遭って体が麻痺してから、テレビで自分のような人を見かけないことでまるで自分が社会の一部ではないような感覚になったこともありました。パフォーミングアーツは、舞台に立つ人が多様で、一人ひとりが素晴らしい才能を持っていることを証明できる素晴らしいメディアです。パフォーミングアーツだけでなく美術でも音楽でもなんでも、アートというものは、従来ネガティブに思われがちなことも転覆させて歓びに変えることができます。
『ホンク!』でも台詞にありましたが、違いがあるからこそ世界は退屈じゃないんです。「違いが怖い」からといって人生の豊かさを体験できないとしたら、それは本当に残念なこと。未来の社会が、一人ひとりが人を愛し他者に手を差し伸べて繋がっていくことを恐れないものになるといいですよね。繋がることによって、私たちは歓びを味わえるのですから。