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True Colors FASHION

「「違い」から始まる多彩な衣服たち 」True Colors FASHIONファッションショー-レポート:徳永啓太

ランウェイの様子(撮影:冨田了平)

「違い」から始まる多彩な衣服たち

徳永啓太

多様な当事者と考えるファッションの豊かさ

 5月某日、True Colors FASHION の撮影が行われると聞き現場であるスタジオに向かった。それが本作品「True Colors FASHION 身体の多様性を未来に放つ ダイバーシティ・ファッションショー」。総合監修に落合陽一氏を迎えたファッションデザイナーとテクノロジー、そして身体的に多彩なモデルを掛け合わせたファッションショーの映像作品である。プロデューサーに金森香氏、ファッションディレクターに山口壮大氏と長くファッション業界に精通している人が参加している。
 True Colors FASHION の根本にある「多様性」をもっとも効果的に伝えるには百聞は一見に如かず、つまり体感してもらうことだ。主催者や関係者もそれを一番理解しているものの、新型コロナウイルスのパンデミックにより、オンライン映像での開催となった。この現状を変えることはできない為、打開策として今回関わったデザイナーとテック開発者、そして多彩なモデルに落合氏がインタビューする映像を公開。作品ができるまでの舞台裏や制作秘話、当事者が感じる社会とは?といった話が盛り込まれ、ファッションショーに奥行きが生まれた。参加ブランドは海外から「トミーヒルフィガー」、日本を代表するブランド「カンサイヤマモト」に次世代を担う若きデザイナーズブランドが出揃い、日常生活に寄り添った「無印良品」も登場した。

  • トミーヒルフィガーアダプティブを着用した益ノ進さん(撮影:冨田了平)

  • 「ハトラ」によるコートを着用する倉澤さんと石井さん(撮影:冨田了平)

課題解決からデザインで昇華させる

 全てのアイテムをじっくり紹介したいが、ここでは私が興味を持った当事者とファッションの関係性をまとめていく。
まずは本プロジェクト根本となるアダプティブ(適応させる)ファッションという言葉。5年ほど前から生まれ、ファッション業界は身体的マイノリティへのアプローチを始めている。この概念を広める先駆けとなったブランド「トミーヒルフィガーアダプティブ」はデザイナー自身が自閉症の子を持ち、日頃から服を着せることが困難であることから、2016年からアイテムを展開。ジップやボタンなどから研究し着やすさを再提案、ショーでは現在販売されているアイテムを、ダウン症の啓発活動を行なっているあべけん太氏、義足モデルのGIMICO氏、難治性てんかんのある益ノ進氏、義手でナースとして働く栗原氏が着用した。
 一方で今回が初の試みとなったのが、次世代を担う日本のブランド「ハトラ」と「コトハヨコザワ」。それぞれの当事者とコミュニケーションをとり、「ハトラ」は骨肉腫により片腕のないモデルの倉澤氏と石井氏が着やすいように、また「コトハヨコザワ」は重度の心身障害児のここね氏のため母親が着せやすいように一からデザインした。またジェンダーレスなアイテムを展開する「MIKAGE SHIN」は、新しい男性像を提案し活動しているタレントりゅうちぇる氏へワンピースを提案。家族愛というテーマから妊婦体験ベルトを着用し、男性、女性そして妊婦を超越した当事者としてのあり様を一着に込めた。

  • WHILLに乗る我妻さん(撮影:冨田了平)

  • 光るヘッドピースや衣装をまとったPippiさん(撮影:冨田了平)

 今回のショーで肝となるのは日本のテクノロジーをファッションとして組み込んだことだ。70歳を超えてもなお現役モデルとして活動する我妻マリ氏は、障害の有無に関係なく利用できる次世代モビリティ「WHILL」に乗りランウェイを闊歩。読み上げ機能のあるメガネ「OTON GLASS」は、「beta post」によるコートやケースを着用した視覚障害者でフリークライマーの濱ノ上氏のファッションアイテムとして取り入れられた。また音を視覚と振動に換える装置「Ontenna」の技術を用い、ファッションブランド「ANREALAGE」が音に合わせて光るヘッドピースやイヤリングを作成、聴覚障害のあるモデルPippi氏にスタイリングした。
 各々の当事者が持つ課題をファッションとテクノロジーで昇華させ、他にはない新たなファッションスタイルが生まれた。
どれも目先の課題を解決するだけではなく、どういうスタイルが美しいか、またはどうすれば当事者の生活がより豊かであるかという、デザイナーの哲学が伺えたのがとても興味深い。
 一番わかりやすいのは乙武氏が着用した日本の羽織物。こちらは呉服でありながらも着物丈の変更が可能だったり、帯がベルト式と工夫が施されているが、それよりも乙武氏には、日本の羽織物を着るという行為が選択肢に加わることに価値を感じているように思えた。それは着るだけで和装の美しい佇まいや日本人であるアイデンディティを感じられるからだ。つまり「着やすさ」よりも羽織ることで「自分らしさ」を持つことがファッションの力である。

  • 丈の長さを変更できる着物を着た乙武さん(撮影:冨田了平)

  • ビデオブースで操作する落合さん(撮影:冨田了平)

 コレクションムービー冒頭で落合氏が「みんな違って、みんなどうでもいい」とコメントしている。多少強いメッセージのように感じるかもしれないが、ここでいう”多様性”は深く考えずまずは互いを知ることだ。いろんな人がいると知った後、その知識をどう活かすかは各々に任せる。極論「どうでもいい」と感じたとしても良い。受け取った側の価値観も多様だからだ。私はその距離感が心地よいと思う。そのためにも「知る土台」は必要、まずはファッションという身近なものから「きっかけ」を作っていけたらと願う。プロデューサーの金森氏は「まだまだスタート地点」だと答えた。

徳永啓太(ジャーナリスト)
先天性脳性麻痺により車椅子を使用。coconogaccoでファッションデザインを学ぶ。2017年からファッションと多様性を軸にフリージャーナリストとして活動。DJやモデルと幅広く、2018年VOGUE WORLD SELECT 100 STREET STYLE にも選出されている。BRUTUSやWWDJAPANなどで執筆を行う。

True Colors FASHION 身体の多様性を未来に放つ ダイバーシティ・ファッションショー

True Colors Festival

歌や音楽、ダンスなど、私たちの身近にあるパフォーミングアーツ。

障害や性、世代、言語、国籍など、個性豊かなアーティストがまぜこぜになると何が起こるのか。

そのどきどきをアーティストも観客もいっしょになって楽しむのが、True Colors Festival(トゥルー・カラーズ・フェスティバル)です。

居心地の良い社会にむけて、まずは楽しむことから始めませんか。

「◯◯にとっての私」と「私にとっての私」

セクシー女優/ True Colors ACADEMY LECTUREシリーズ「からだのミカタ」出演者

戸田真琴

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