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True Colors Festivalをともに作る仲間を紹介する「Meet The Family(TCFファミリーの素顔)」シリーズ。今回はフェスティバル・プロデューサーの森真理子さんを紹介します。大規模なパンデミックの中で、本芸術祭を企画・運営することは、決して簡単なことではありません。森さんにお話を伺いました。
Q: 「True Colors Festival」の2020年に向けた作業はいつから始まり、何が出発点だったのでしょうか?
2018年の夏に日本財団の担当常務と担当の方から、2020年に向けて東京で「True Colors Festival」を実施する計画を聞きました。日本財団と私が所属する、日本財団 DIVERSITY IN THE ARTSが、フェスティバルの共同主催者としてともに実施することになったのです。その後、フェスティバル運営の座組や予算計画を検討し、制作・運営を共に進めていただく関係団体のリサーチや組織作りに着手しました。
翌年9月には、東京での最初のイベントして、日本、カナダ、アメリカ、オランダなど数カ国の素晴らしいダンサーが参加するストリートダンスのイベントを実施することができました。
2019年9月に開催したTrue Colors DANCEの様子(撮影:冨田了平)。
Q: ご自身の役割について教えてください
日本財団True Colorsチームの青木さんとともに、フェスティバル・プロデューサーとして、フェスティバル全体の方針決めや、予算管理を行っています。私は、フェスティバルに関わる関係者や団体、参加アーティストなど多様な人々がいる現場のハブ役として、各現場の声を聞き、方向性の齟齬がないか調整する役と理解しています。
Q: 「True Colors Festival」はゼロからの出発だったと思います。そのプロセスはどのようなものでしたか?
ゼロからフェスティバルを始めるのは難しくもあり、エキサイティングでもありました。今回はこれまで私が関わったことのある芸術祭やフェスティバルの中でも規模が大きく、またより中枢の部分で予算や組織運営を見ています。まず、各プログラムを制作運営するチーム、広報PRチーム、事務局の立ち上げを行いました。ワンストップではなく、さまざまな分野のスペシャリストを集めた複合チームを作りました。また、このフェスティバルはアクセシビリティの充実や多様性をテーマにしているため、そのような視点を持つ有識者によるアドバイザリーパネルの設置も重要でした。
意思決定の面では、もう一人のプロデューサーである青木さんと密にやりとりをし、現場での無数のオペレーション上の意思決定を行っています。適宜、エグゼクティブプロデューサーであるオードリー・ペレラさんや総合プロデューサーの樺沢常務とも緊密に連携し、戦略的でより「大局的」な判断を下しています。通常の組織やフェスティバル運営に比べて、柔軟かつ迅速に意思決定を行うことができる環境だと思います。2020年に向けた本格的な活動を開始してから、組織を構築し、最初のプレス発表を行うまでに約1年を要しました。
Q: 2019年から20年に向けて開催された「True Colors Festival」のシリーズイベントはどのようにして選ばれたのですか?
ともにフェスティバルを運営する組織や団体の皆さんと一緒に、色々なアイデアを出し合いながら、半年ぐらいをかけて、シリーズイベントを決めました。様々なプレーヤーの方に関わっていただくことでフェスティバルの幅が広がると考え、複数のプロデューサーの方に依頼をしました。多様性をどう具現化できるのかという視点のほか、パフォーミングアーツによるフェスティバルとして、音楽、ダンス、演劇、サーカス、ファッションショーなど多ジャンルの演目を通じて、それぞれ独自の様式から生まれる企画を期待しました。
様々な能力のあるパフォーマーが登場するTrue Colors CIRCUSでは、個性が重視され、それぞれのパフォーマーが輝いていました(撮影:冨田了平)
Q: プロデューサーを見つけることは困難でしたか?
各演目のプロデューサーには、これまでに一緒に仕事をしたことのあるプロデューサーもいれば、チームづくりの過程で知り合ったプロデューサーもいます。短い準備期間で適切なプロデューサーの方々を見つけ依頼することは大変でした。
しかし、みなさん、これまでにも障害のある方と一緒に仕事をしている方や、多様性やインクルーシブな視点を持って作品づくりにあたるプロデューサーの方々ばかりでしたので、初めから本フェスティバルの主旨を十分理解されていました。
Q: それだけの作業を行いながら多くのパートナーや人材を投入して、True Colors Festivalのクライマックスである「True Colorsコンサート」が2回延期されたことについて、どのようにお考えですか?
2020年3月にプログラムの中止・延期を決定した時期は、社会全体としても、イベント開催の判断をどうすべきか、新型コロナウィルスの感染拡大をどう捉えてよいのか曖昧な部分があったと思います。また国によって状況が異なるため、海外のアーティストを日本に招聘して公演を行うことが可能かどうかなど、検討すべきことがたくさんありました。事態の進展に応じて、プランA、B、C……と対応策を考えることに苦労しました。
「中止」という言葉が頭をよぎったときは、これまで準備してきたものがどうなるのか、とても残念でしたし不安になりました。しかし、中止を決定した後は、迅速に情報共有をし必要な作業を行いました。関係者一同、フェスティバルの継続や再開を探り目的を発信し続ける意向で一致していたので、前向きになれました。
その後、国内外の人を招く大規模なコンサートを2021年夏に実施する方向で進めていましたが、再度延期し、2022年に行うことが決定されました。
いまも新型コロナウイルスの影響がいつまで続くかわからない中、この決定は正しかったと思います。オンライン配信など別の形でコンサートを行うこともできたかもしれませんが、パフォーマーや観客が生の舞台を安心して楽しめる環境で行うことを目指す、という判断をしたことは重要なことだったと思います。
1回目の延期と2回目の延期の違いは、2回目は東京オリンピック・パラリンピックの期間を越えて開催するということです。これは、True Colors Festivalの意義が今後ますます試されていく、ということだと思います。
Q: 多くのイベントを企画し、またそれが中止になった経験から得た最も重要な教訓は何でしょうか?
社会情勢や状況がどのように変化しても、フェスティバルの目的や理念を常に見直すこと。2020年の夏に向かっていた時期は、日本全体がオリンピック・パラリンピックに向けての気運があり、本フェスティバルもその社会的な波の中にありました。その相互作用は、フェスティバルにとって重要なことでしたが、”2020年夏”という期限を前にして、各イベントの目的を見失いがちな面もあったと思います。当時は、新型コロナウィルスによって冷や水を浴びせられたような感じがしました。延期したことは本当に残念でしたが、フェスティバルの目的や主旨を見直す良い機会になりました。
Q: パンデミックの状況下でアートイベントを行う際の4つのポイントは?
- 常にいくつかの選択肢を用意しておくこと
- 延期や中止の可能性を考慮すること
- オンラインイベントでは、より効果的に行うための工夫を考え続ける
- 世界中でオンラインイベントが増え、テクノロジーの発展や新しい価値観が生まれるなかで、障害者や異なる言語を話す観客に向けたアクセシビリティを高めることを目指し続ける
Q: 今回の体験から、人生の教訓のようなものはありましたか?
人知の及ばない自然災害や戦争のような人災まで、人が直面する途方もない出来事に、私たちは常にさらされているのだという自明のことを、あらためて意識しました。感染症に限らず様々な病気のリスクを常に私たちは抱えています。生と死を意識するからこそ、私自身、目の前にある日常や家族、仕事など、ひとつひとつのことを大切にしていきたいと思っています。むしろそれしかできないのではないかと思います。危機のなかでこそ、身近なことを丁寧に粘り強くやることが重要だと思います。そうすることで次の方向性が見えてくるのではないでしょうか。
Q: True Colors Festivalのメッセージ「One World, One Family」は、あなた自身にとってはどのような意味がありますか?
想像もできないような遠くの人から隣人まで、地球上のさまざまな背景、環境のなかで生活する人々に思いをはせること。
ある人の人生が、自分の人生かもしれず、自分の人生はまた別の誰かの人生だったかもしれない、と考えること。その想像力こそが、パフォーミングアーツを通じて共有・体験・獲得できるものだと信じています。
森真理子
True Colors Festival -超ダイバーシティ芸術祭-」フェスティバル・プロデューサー。フェスティバルの各プログラムの企画や全体統括を行う。これまでの国際的なフェスティバルやコミュニティアート・プログラムでの経験が、人とコミュニティをつなぐ体験や作品づくりに繋がっています。