fbpx

voice

植物に学ぶコミュニケーションの心得

医師・東京大学医学部付属病院循環器内科助教・医学博士/ True Colors ACADEMY LECTUREシリーズ「からだのミカタ」出演者

稲葉俊郎

  • Share on facebook
  • Email
  • Share on twitter
  • Share on what's up
  • Share on LINE
2020年1月22日

宇宙や自然、そして人間の体もそうですが、すべては「全体」があって存在しています。その「全体」を成立させるために、あらゆるものが部分化されていきました。例えば仕事でも、ひとりで何もかもできないので、色んな業種や職種に部分化することで仕事全体を果たそうとしますし、三権分立も三つの要素に部分化させることで、民主主義の全体を成立させるための知恵や工夫のひとつだったのだと思います。ただ、今はあまりにも部分が多くなりすぎて、部分と部分との関係性、部分と全体の関係性、なぜ部分に分かれたのか、その大元の全体性は何だったのか、部分と部分との繋がりはどういうものなのか、そうした部分と全体との関係性がわからなくなって困っている状況だと思います。「自分」と「他者」の関係性も同じようなものです。人間社会という全体性を成立させる部分として「自分」と「他者」がいるし、そもそも「自分」は「他者」との関係性なしには食料すら得ることができなくなってしまっているのですから。
そのわからなくなってしまった関係性を取り戻すには、ただ座って待っていても何も起こりません。自分から関係性を結びにいくことが必要になります。それは、他者や自然や環境へ何かしらの興味をもつとか、ちょっと何か自分が関与してみるとか、ほんのすこしのコミットで十分なのです。「True Colors ACADEMY」への登壇も、医学が社会全体から分断されているように感じていて、私たちの日常の暮らしや生命活動とかなり遠いものになってしまっていないかという危機感があり、医師という職種の自分が登壇することで新しい関係性が生まれれば――そんな思いで参加しました。

他者とコミュニケーションすることはあまりにも日常的ですが、誰もちゃんと教わったことがないので、多くの人が見様見真似でやっている状況です。そうすると、間違ったコミュニケーションを強化していることもあるわけです。コミュニケーションで大事なことは、自分には自分の、相手には相手の人生の課題やテーマがあるというふうに、相手を尊重することです。アドラーが言う課題の分離でしょうか。違いを認めることが相手を尊重することに繋がり、まず自分から尊重することをはじめ、最終的にはお互いに尊重しあう、ということが相手との良好な関係性を結ぶ前提になると思います。みんなが同じ波に乗っているわけではありません。私たちはそれぞれの人生の波に乗っていて、そうした色んな波がある時に交差して出会いが起こります。人生の交差において、共鳴は必ず起きるのですが、みんなが同じ波に乗り続けるわけではなく、それぞれはまた別の人生の波へと運ばれていく。だからこそ、他者との出会いは一期一会であって面白いのです。どちらかの土俵に引きずり込んでしまうのは、相手を尊重することにはなりません。お互いの過去が繋がった人生を尊重することが大事なのだと思います。

いま波のイメージを使って出会いを喩えましたが、そもそも自然界の全体性がそうした一期一会の一回性ばかりです。たとえば森を見ても高い木や低い木、茂みや草むらや地面など、日光の当たるバランスであらゆる生態系が存在して、その全体としての森を成立させています。四季のなかにも、日本でいう二十四節気のように微妙なズレと細かなフェーズが連続して繋がっていて、それぞれ特有の時期の特徴を示す旬がある。タケの花は周期的に開花して一斉に枯れることが知られていますが、マダケは約120年周期と言われています。周期が分かっていないタケの花の種類も多いのです。花が咲く周期やサイクルは、それぞれ違い、そこに上下や優劣はありません。固有の時間のようなものです。そうしたものが同時に存在して共鳴しあっているというのが自然界の全体像です。僕らは自然から、もっと多くの、もっと深いものを学びとれると思います。

自然は、外にある樹木や草花だけではありません。僕らの身体すらも内なる自然です。目をつぶってみると、自分と外界の境目は曖昧になりませんか。「True Colors ACADEMY」のワークでもやったように、目をつぶり、身体を忘れて心だけの存在になった時、ミクロ世界からマクロ世界まで、極端に言えば宇宙の果てまで繋がることも不自然ではありません。人間は視覚に左右されているからこそ、目に見える部分で自と他の関係を捉えてしまいがちですが、もっと広く深い世界で、僕らはどうしたら新しい関係性を結べるのかと、考えなおしてみることは大事なのことではないかと思います。
そうしたことを頭の理屈の世界ではなく、身体そのものでダイレクトに感じる機会がもっと多くあればいいなと思っています。それも医学や医療が果たす役割ではないかとも思っているからです。

稲葉俊郎オフィシャルサイト
True Colors ACADEMY LECTUREシリーズ「からだのミカタ」

True Colors Festival

歌や音楽、ダンスなど、私たちの身近にあるパフォーミングアーツ。

障害や性、世代、言語、国籍など、個性豊かなアーティストがまぜこぜになると何が起こるのか。

そのどきどきをアーティストも観客もいっしょになって楽しむのが、True Colors Festival(トゥルー・カラーズ・フェスティバル)です。

居心地の良い社会にむけて、まずは楽しむことから始めませんか。

ページトップ