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色々な人が一緒にいる社会は自然なこと/山口茜

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2021年8月11日

2018年に日本財団 DIVERSITY IN THE ARTSが主催した障害のある方のワークショップ・プログラム「サマースクール2018」の講師を務めた山口茜さん。作・演出を務めるトリコ・Aの新作『へそで、嗅ぐ』(2021年)で、山口さんは何を感じ、何を思い、作品を作り上げたのでしょうか?

サマースクール 2018

Q:今回の作品の起点に2018年のワークショップがあったとのことです。

サマースクールの講師を務めるまで、障害のある人とのワークショップをしたことがありませんでした。ワークショップでは参加した方と小さな作品を作ったのですが、その時間がとても心地よかったことを覚えています。この人たちを作品をつくりたいと思ったことが今回の作品のきっかけです。
わたしは、傷痍軍人で障害があり寝たきりになった祖父と子供のころによく接する時期があったのですが、「おはよう」や「ただいま」と声をかけるのが日常でした。具体的な意思の疎通はできないけれど、障害のある人とともにいることは、割と普通のことだったんです。
ワークショップに参加したみなさん全員と作品を作りたかったのですが、それは実際問題として難しかったので、福角幸子さんに出演いただき、ドラマトゥルクにウォルフィー佐野さんに入っていただきました。コロナのせいもあって、上演できるまで3年かかりましたけど。

『へそで、嗅ぐ』公演風景

『へそで、嗅ぐ』公演の様子、向かって右が福角幸子さん

Q: 製作する中でどのような苦労がありましたか?

障害のある福角さんに舞台に出てもらう、出はけもあるので、介助の方法をみんなで勉強しました。公演直前には福角さんが体調を悪くして、しばらく稽古にでられなかったんです。代役も考えたのですが、福角さんの代役はどこにもいない、替えが効かない。実は、福角さんは必ず本番に立てるとどこかで信じてはいたのですが、それでもやはり、代役が立てられない俳優を選んでしまった恐怖みたいなことは感じました。

また福角さんの稽古の参加の仕方が最初、よく理解できなかったんです。なぜこの日は急に休むのか、とか色々。稽古終盤になって、彼女が大阪から遥々京都まで稽古に来られると言うことは障害者介護の仕組みみたいなものを理解しないといけないことを学びました。私たちは自分の体一つあればどこにでも行けるし、誰の許可もいらないけど、福角さんがどれだけ出かけたくても、社会の仕組みが邪魔していると言うこともあるんだと知りました。それは私も今、乳幼児を育てているので少しわかるところがありますが、それでも「稽古に参加してもらえないと困る」と思ってしまいました。まだまだ日本は、個人の事情への配慮より社会の都合が優先されている現実を突きつけられました。

『へそで、嗅ぐ』稽古風景

『へそで、嗅ぐ』稽古の様子、向かって右が福角幸子さん

Q: 伝えるということをどのように考えていますか?

障害を扱っているというより、障害のある家族がいる作品で、障害者もその家族も、家族の中に断りもなく入ってくる人もそれぞれ思惑や不満や期待を抱えている。それを登場する人とひととの関係の中で描き出していきます。
ウォルフィーさんとは10回くらい脚本について意見交換をしたのですが、ウォルフィーさんは「この言葉はこれに変えた方がいい」と具体的に言ってくれるんです。全盲で舞台を見たことがないウォルフィーさんは音だけで脚本を読んで、ひっかかりを具体的に遠慮なく指摘してくれる。「面白くしたい」とか「楽しくしたい」とかそういうことを基準に読んで意見をくれる。それが面白かったんです。逆にこれまでの作品でドラマトゥルクとして入ってくださった人たちは「山口さんの作品」として相当配慮してくれていたんだなとも思いました。

『へそで、嗅ぐ』公演風景

『へそで、嗅ぐ』公演の様子。大きな松のある庭と縁側で物語は進む

Q: True Colors Festivalは多様性とインクルージョンを称える舞台芸術祭として、「One World One Family(世界は一つの家族)」というキーワードでPRを行なっています。山口さんの考える「ワン・ワールド・ワン・ファミリー」について教えてください。

自分の身体もそうだし、自分の家族、会社、子供の通う保育所、どれ一つとってもそうなんですが、自分だけ、自分の子供だけ、一部分だけ、を良くしようと思っても絶対無理だなあと生活の中で痛感しています。私のしんどさは誰かのしんどさに繋がっているし、私の幸せは誰かからもらった幸せでしかなくて、それは自分の能力とは全く関係がない。私は恥ずかしいながら、最近まで母親と会えばいつも喧嘩してました。絶対的に母が悪いと思い込んでここまでやってきました。家族という密室の中で親が子供を支配する怖さ自体はこれからも警戒していきたいと思いますが、それとは別に、母がどのような生育環境にあったか、その生育環境は日本社会、引いては第二次世界大戦がもたらしたものではないか、と考えていくと、全てはつながっていて、個人の問題ではなかったのだと気がつきました。だからこそ、個人でできることは個人が引き受けていくべきだとも思います。私の今、できることは、例えば母と仲良くすること。例えば、障害のある方とない方を混ぜて作品を作ることです。小さいことですが、そこから始めていくしかないなと思っています。

山口茜/トリコ・A
山口茜が手掛ける劇作および演出作品の上演を目的に、公演の都度、出演者・スタッフを集めて活動する。東京国際芸術祭リージョナルシアターシリーズ、精華小劇場オープニングイベント、大阪芸術創造館クラシックルネサンス、愛知県芸術劇場演劇祭、アトリエ劇研演劇祭、文化庁芸術祭などに参加。近年はアクセシビリティサービスとして、無料の託児サービス、聴覚障害の方のための字幕サービスなどを実施。今後、音声ガイド等取り扱うサービスを広げていきたいと考えている。

トリコ・A
Safari.P / Toriko.A Facebookページ
山口茜 作・演出のトリコ・A新作『へそで、嗅ぐ』。大阪・東京の二都市で上演:DIVERSITY IN THE ARTS TODAY

True Colors Festival

歌や音楽、ダンスなど、私たちの身近にあるパフォーミングアーツ。

障害や性、世代、言語、国籍など、個性豊かなアーティストがまぜこぜになると何が起こるのか。

そのどきどきをアーティストも観客もいっしょになって楽しむのが、True Colors Festival(トゥルー・カラーズ・フェスティバル)です。

居心地の良い社会にむけて、まずは楽しむことから始めませんか。

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