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【Meet The Family(TCFファミリーの素顔)】True Colors FASHIONから、鳥山将洋さんに、ショーで我妻マリさんが使用した電動車椅子「WHILL」開発までの経緯や、思い描く未来についてお聞きしました。
True Colors FASHION 身体の多様性を未来に放つダイバーシティ・ファッションショー:2021年5月30日から公開
Q: 鳥山さんはエクステリアデザイナーとしてマツダに従事した後WHILLに入社されたそうですね。2017年当時、創業5年目を迎えていたWHILLに、どのような思い・きっかけで入社を決められたのでしょうか?
もともと弊社代表の杉江と友人で、当初から彼に色々と話は聞いていました。
その後、前職で約10年間勤めておおよその開発について身についてきたタイミングで、改めてWHILLを見知る機会がありました。
当時のWHILLはModel Aを製造販売している頃で、杉江に限らず20代の社員達がゼロから懸命にプロダクトを作り上げて、ユーザーに届けていたんです。その事実を知って、当時の自分と比較した事を覚えています。
私がそれまでデザインの仕事だけを行ってきた一方で、彼らはリサーチからデザイン、設計、製造、工場立ち上げ、ロジスティクス、販売まで一貫して全メンバーで対応していました。そのことに驚愕し、私もものづくりの視点をより広げたいと思うようになりました。同時に今まで培ってきた自動車デザインのスキル・熱量をもって車椅子をやりきったら、世界にどんな変化をもたらせられるだろうかと考え、迷わず入社を決めました。
Q: もともと車に携わっていた鳥山さんが、WHILLのデザインに関わるようになって見えてきたこと、デザインという意味での車とはまた違った魅力や課題があれば教えてください。
まずユーザーをかなり注意深く観察しないと作れないということが見えてきました。例えば、半身まひの方がどういった順序や姿勢の工夫で車椅子に乗るのかや、利き手とあえて逆の手で操作する事で利き手側を空けておきたいということなどは、実際にユーザーに見聞きしないと絶対わからないことでした。
車と違った魅力は、ユーザーの生活の質や生き方を本当の意味で変えられるところです。実際にユーザーの方から「WHILLに出会って生き方が変わった」とメッセージをいただくことがよくあります。
車はほぼ完成されたプロダクトなので、微妙な乗り味や燃費、スタイリングなど、良いものをより昇華させ、プラスのものをよりプラスに転じていくことが求められますが、車椅子はもっとそれ以前の、必要最低限の生活を保障する乗り物で、スタイリングや乗り味は二の次です。言い換えるとマイナスをゼロにすることができるレベルのプロダクトの域にとどまっていると考えています。だからこそ、WHILLが登場したときに、前述のようなお言葉を頂戴したのではないかと思います。必要最低限の生活の為の価値の域から脱却し、「健康維持」や「生活の質」を上げる、ゼロをプラスにする価値を生み出す事は何よりのやりがいだし、より広めていかなければならない社会全体の課題だと思っています。
また、WHILLは車と違って乗員が露出しているので、内外装と乗員を同時に捉えなければデザインが成立しません。ユーザーのニーズによって、そもそもの車体構造から大きく見直しが出来るところも、車と大きく違う魅力だと感じます。
Q: 福祉用具としての車椅子には、様々な課題に合わせたスタイルや機能(電動の有無、背もたれの形・リクライニングできるかどうか・座面のクッション性など)がありますが、WHILLは、その中でどのような位置付けと捉えていらしゃいますか?
文字通り「全ての人が楽しくスマートに乗れるモビリティ」の位置づけを目指しています。それを一車種でやるのか、ユーザーに合わせて特化した乗り物をそれぞれ作るのかなど、まだまだ道半ばで何が最適解なのかはわかりませんが、最終的にはそれを実現したいと思っています。
Q: ランウェイでは、我妻 マリさんがWHILLに座るシルエットが美しく動きもスムーズで小回りがきき、魅力的でした。インタビュー収録では「できるだけ乗り物の存在感を消したい。乗り手が主役」という言葉もありました。どのような思いからそのように考えるようになったのか、もう少し詳しく教えていただけますか?
我妻さんが魅力的に見えたのはWHILLに乗っているからではなく、本来的に我妻さん自身が魅力を備えているからだと思います。モビリティの存在感を消したいと言ったのは、モビリティが主張する事でユーザーの人間性がぼやけて見えてしまうのを避けたいからです。また、一般的な車椅子は残念ながら病的で負のイメージが付いてしまっており、本来あるべきユーザーの人間性をスポイルしていると思います。
ですから、WHILL自身の魅力というよりも、ユーザー自身が本来的にもっている人間的魅力を引き出す、きっかけとしての乗り物でありたいと思います。
我妻さんがWHILLに乗っている姿を現場で拝見したときにも、改めてそう感じました。
WHILLに乗る我妻マリさんのシューティング風景(撮影:冨田了平)
Q: WHILLが現在取り組んでいる課題や目指す未来像があればお聞かせいただけますか?
WHILLはすべての人の移動を楽しくスマートにする、ということをミッションに、老若男女すべての方へのモビリティとして愛される未来を目指しています。今は、シニアをはじめ歩行困難に感じている方にむけて、病院や空港での自動運転システム導入や、製品販売といった移動手段を提供することで、みなさまのQOL向上にこたえるべく取り組んでいます。
Q: 落合陽一さんが総合演出を務めた今回のファッションショーでは、WHILLをはじめ、身体に寄りそうテクノロジーをファッションによって拡張し、誰しもがもつ身体の多様性に呼応するアダプティブな装いのあり方を提案しました。今回のショーへの参加をきっかけに様々な身体・ファッション・テクノロジーを持って活動する方々と出合い、感じたこと、考えたことなどありましたら教えてください。
ひと昔前と比べ、ダイバーシティという言葉が本当に社会実装されてきたなと思います。さまざまな身体状況を一つの個性として社会が捉えてきているし、当事者自身もそのマインドを持ち始めているなと思いました。同時に、言い方が変ですが、最終的にこういった催しがなくなる、意識しないレベルまでいくと本当の意味での多様性の受け入れが完了するのだなと感じました。
Q: True Colors Festivalは多様性とインクルージョンを称える芸術祭として、特に海外に向けて「One World One Family(世界は一つの家族)」というキーワードでPRを行なっています。鳥山さんの考える「ワン・ワールド・ワン・ファミリー」について教えてください。
そもそも人間は一つの生命体が増殖、進化して今に至っていると思います。
そういった意味だと、他人は自分であり、その逆も然りだと思います。
人類全体で一個種の生命体だと思うので、自らの多様性を認め、より生きやすく社会を変化させていくことは人類全体の進化につながるごく自然な発想だと思います。
それを実現させる為に必要なのは、シンプルに他人や自分に対する「やさしさ」なのではないかと思っています。
インタビュー収録の様子。画面左から、鳥山さん、我妻さん、落合さんが並ぶ(撮影:冨田了平)
鳥山 将洋
マツダでエクステリアデザイナーとして従事した後、2017年にWHILLに入社。デザイナーとして、WHILLのデザイン全般に関わる。現在、デザインブランディング室デザイナー。
わずかな距離でも、段差、悪路などの物理的なハードルや、車椅子に乗るということへの、心理的なバリアで外出をためらう人がいる。「100m先のコンビニに行くのをあきらめる」一人の車椅子ユーザーのこんな声から始まったWHILLの開発現場で、“格好良くなければ作らない”を設計指針とする、WHILLの“格好良さ”とは何かに挑戦し続ける。