voice
True Colors Festivalをともに作る仲間を紹介する「Meet The Family(TCFファミリーの素顔)」シリーズ。2021年5月末に配信される True Colors FASHIONから、武藤将胤さんに、現在取り組んでいる活動や、思い描く未来についてお聞きしました。
True Colors FASHION 身体の多様性を未来に放つダイバーシティ・ファッションショー:2021年5月30日から公開
Q: 現在は主にどのようなことに取り組んでいらっしゃいますか?
僕は視線入力によって洋服や音楽など、様々なクリエイティブ活動に取り組んでいます。代表的な事例が、EYE VDJという音楽や映像による表現活動です。眼鏡型のウェアラブルデバイスを活用して、様々な電子機器をコントロール出来るアプリケーションを開発し、操作しています。
現在は様々なアーティスト達とコラボレーションし、視線入力による作詞などのオリジナル楽曲の制作や、楽曲の世界観を表現した洋服作りに挑戦しています。
Q: 武藤さんは今回のプロジェクトでは記録されたご自身の声を使って、インタビューに答えていらっしゃいましたね。現在取り組まれている「ALS SAVE VOICE」とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか?
一人一人の声は、自身の身体の大切な個性だと僕は思っています。でも残念ながら、多くの患者はALSという病の進行により、自分の声を失ってしまいます。僕自身も2020年1月に声を失いつらい思いをしました。1人でも多くの患者仲間達の声を救いたいと考え、オリィ研究所、コエステーション、WITH ALSの3社で、ALS SAVE VOICEを立ち上げました。僕らが発案し、音声合成プラットフォーム「コエステーション」と目を使った意思伝達装置「OriHime eye」を連結させて、自分の声で話し続けることが出来るサービスを開発しました。クラウドファンディングによって2019年に実現し、今ではたくさんの仲間達が自分の声でコミュニケーションを続けています。
OriHime eyeを操作する武藤さんの後ろ姿(撮影:冨田了平)
Q: モデルとしてランウェイを歩かれた時に着用された衣装も、武藤さんが手がけたブランドだと聞いています。ブランドの特徴を聞かせていただけますか?
全ての人が快適にカッコよく着られる服を届けたいという想いで、01 BORDERLESS WEARというブランドをプロデュースしています。今回のランウェイのために、新作アイテムを制作してスタイリングをしました。今年リリースした僕(EYE VDJ MASA)とandropの楽曲「EVERYONE,CHALLENGER.」の世界観を表現した、新作のフラワーアートを、フラワーアーティスト東信さんと制作し、プリントした作品です。
Q: 今回着用しているジャケットも01のものですね。機能面などどのような特徴があるのでしょうか?
このロングMA1は、01BORDERLESS WEARを象徴するアパレルとして仕上げました。
リバーシブルで着用出来るだけでなく、車椅子走行中やトイレに行く際には、マジックテープで簡単にハーフ丈に出来るユニバーサルデザインになっています。また両腕のメッセージプリントには、リフレクターシートを使用することで、夜道でも自分の存在を相手に知らせることが出来る工夫を施しました。その他にも、01BORDERLESS WEARには、マグネットで着脱出来るスウェット素材のノーカラージャケットなど、機能性にもこだわったアイテムを展開しています。
True Colors FASHIONショーの収録風景。ロングMA1を羽織ってランウェイに佇む武藤さん(撮影:冨田了平)
Q: インタビューの収録では、「武藤さんがALSになったと聞いて、ALS業界が変わると思った」という落合陽一さんの言葉が印象的でした。現在もALS患者でありながら、多岐にわたる活動をされていますね。原動力はなんでしょうか?
ALSによって、どれだけ身体的自由が奪われようと、自分らしいライフスタイルを諦めず、可能性を追求し続ける限り、僕らの身体は多様に拡張していけると信じています。
僕はテクノロジーを自分らしく身に纏うことで、失った身体の補完にとどまらず、拡張までしていけると考えています。例えば、このトランスフォームする車椅子になったことで、ALSだろうと僕は誰よりも速く走り、昔より自由自在に立ち上がりながら、視線入力でDJ/VJとして音楽ライブをプレイしてます。
この声だってそうです。視線入力した言葉を、昔の僕の声を元に作った音声合成で発話しています。近い将来、クロスリンガルという技術が確立されれば、僕のこの声で多言語で話し出せる日が来るかもしれません。僕は昨日までの自分の限界を越える挑戦に挑み続けます。
補完を超えて拡張する身体の未来を目指して。
Q: 落合陽一さんが総合演出を務めた今回のファッションショーでは、WITH ALSをはじめ、身体に寄りそうテクノロジーをファッションによって拡張し、誰しもがもつ身体の多様性に呼応するアダプティブな装いのあり方を提案しました。今回のショーへの参加をきっかけに様々な身体・ファッション・テクノロジーを持って活動する方々と出合い、感じたこと、考えたことなどありましたら教えてください。
これだけ多様な個性を持つ皆さんとの出会いは、僕にとってはとても刺激的で、自分の見ている世界を大きく広げてくれました。当事者ならではの視点や工夫の積み重ねと、テクノロジーやファッションからのクリエイティビティが掛け合わさると、こんな素敵なプロダクトが生まれるのだなとワクワクさせてもらったファッションショーになりました。これからも日本から世界に、身体の多様性と向き合うことで、新たなファッションの未来を提案していきたいですね。
Q: True Colors Festivalは多様性とインクルージョンを称える舞台芸術祭として、特に海外に向けて「One World One Family(世界は一つの家族)」というキーワードでPRを行なっています。武藤さんの考える「ワン・ワールド・ワン・ファミリー」について教えてください。
僕自身の活動のミッションは、ALSの課題解決を起点に、全ての人が自分らしく挑戦出来るBORDERLESSな社会を創造することなんです。世界中のあらゆるBORDERを乗り越えていくためには、「One World One Family」のマインドと行動が大切だと常々考えています。もし困難な壁に自分の家族や仲間が直面したら、どう行動するだろうかと想像し、自分達一人一人に出来る行動をおこすことです。困難な壁を助け合って乗り越えようとする時に、人は必ず進化すると信じています。これからも今僕に出来るクリエイティブの力で、BORDERLESSな社会の創造に貢献出来るように挑戦を続けます。
武藤将胤
ALSクリエイター / 一般社団法人WITH ALS 代表。難病ALS患者でありながら、COMMUNICATION CREATOR、EYE VDJと多彩なパーソナリティで数多くのプロジェクトを手掛けている。過去には広告会社・博報堂にて、様々なコミュニケーションプラン立案に従事。2013年26歳の時にALSを発症。世界中にALSの認知・理解を高めるため「WITH ALS」を立ち上げ、現在は視線入力と自身の発想で様々なアーティストやテクノロジストとコラボレーションし、作品制作やコンテンツ開発に挑んでいる。