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True Colors MUSICAL

True Colors MUSICAL ファマリー「ホンク!〜みにくいアヒルの子〜」 鑑賞サポート レポート

「True Colors Festival」では障害のある人もない人も、誰もが楽しむことのできる場づくりを目指し、アクセシビリティを高める取り組みを継続して行っている。2020年2月15日(土)・16日(日)の2日間、東京建物Brillia HALL(東京・池袋)で開催された、True Colors MUSICAL ファマリー「ホンク!〜みにくいアヒルの子〜」においても、多くの鑑賞サポートが用意された。本稿では、それらの中から6つのサポートについて、利用者の感想と、True Colors MUSICAL プロデューサー 鈴木京子さんへのインタビューを交えてレポートする。また鑑賞サポートの制作プロセスや、制作において重要なことについても末尾にて触れている。

タッチツアー

タッチツアーは、上演直前の舞台で小道具・衣装・舞台セットを触ることができるツアー。主には視覚障害のある方に対し、上演前にイメージを膨らませてもらうことを目的としている。1日1回行われ、1回の参加人数は付き添いの方も含め25人程度だった。

参加者は開場1時間半前にロビーに集合し、関係者入口からステージ上へ案内される。まずは劇団ファマリーの芸術監督であるリーガン・リントンさんが参加者全員に対してあらすじを解説する。その後、参加者は3つのグループに分かれ、Aグループはまず衣装セクション、Bグループはまず小道具セクション、Cグループはまず舞台セットセクションというふうに、少人数でツアーを行う。各セクションには1~2名、ファマリーのスタッフが待機しており、スタッフ自身が解説する。視覚障害があり、ご自身も鑑賞サポートの制作に携わる美月さんはこの形式について「とても効率のいい説明の仕方」と感想を述べた。

「これまでに他劇団のタッチツアーに何度か参加したことがありますが、3グループ/3セクションに分かれるという形は初めてだったので新鮮でした。とても効率のいい説明の仕方ですし、「このセクションでは小道具」というふうに、集中して感じ・考えることができるので非常によかったです」。

衣装セクションでは、スタッフが参加者に「衣装を触ってみてください」と促しながら、視覚障害のある方に、猫の衣装のジャージは花柄といった色・形・素材などの視覚情報を解説する。また小道具セクションではアヒルの大きな人形を裏返して構造を説明するなど、かなり詳細に仕組みを解説していた。時に参加者から、「演出においてその小道具や衣装が何を象徴するのか」といった突っ込んだ質問が投げかけられ、丁寧に理解できるまで説明を行う場面もみられた。

事前解説

事前解説は、上演直前に物語のあらすじを手話とかんたんな日本語で解説するサービス。主には聴覚障害・発達障害・知的障害のある方や子どもを対象としており、事前にあらすじを知ってもらうことで、作品をより分かりやすく楽しんでもらうことを目的としている。1日1回行われ、1回の参加人数は25人程度。

参加者は開場1時間前に受付に集合し、そのまま3階ロビーへ案内される。解説を行うのは、True Colors事務局のスタッフ。紙芝居のように主要シーンを写真パネルで見せながら日本語で解説し、スタッフの隣に立つ手話通訳者が通訳していく。あらすじを解説し終えると、次はパンフレットの出演者情報を見せながら出演者の紹介を行う。

 最後に見どころとして、「アヒルのグレースが足に巻いている赤い布は動物にも人間にも慕われている証です」など、その衣装や演出が何を意味するかを伝える。ラストシーンでは主人公のアグリーがグレースに赤い布をプレゼントされるが、赤い布の意味を事前に把握できていることによって、この行為が何を示すかがより深く理解できる。
 解説を終えた後には参加者から質問を行う時間も設けられており、スタッフが一つひとつに丁寧に答えていく。筆者の参加した日には聴覚に障害のある方から、「セリフか歌かの違いは字幕に明記されるのか」などの質問が投げかけられていた。

客席設計

今回の公演では、車椅子利用者のための車椅子席専用スペースを用意するなど、様々な来場者を想定した客席設計が行われた。車椅子利用者は、車椅子に座ったまま観劇するか座席で観劇するかを選ぶことができ、同伴の介助者がいる場合には近い座席が用意される。事前に申し込みすれば、小さな子どもを連れてくる方、上演中に入退場をされる可能性のある方、客席の中まで入っていくことが難しい方のための通路側席や、アフタートークでの字幕、手話が見やすい席を用意することも可能となっていた。また、補助犬利用の方など事前申込をして来場した方はスタッフが座席までアテンドする。

盲導犬を連れて来場された岩井さんは、「かなりスムーズに観劇できました」と語る。
「建物に入るとスタッフからすぐに声をかけていただきました。よい案内だったと思います。また開場すると「席まで案内するのでお待ちください」と声をかけていただきました。そのような声かけがあると安心できますね。一番前のスピーカーが近くにある席に案内されたのですが、大音響だと犬が驚くかなと思い、スタッフの方に音の大きさを尋ねました。すると「昨日来場した盲導犬ユーザーさんは大丈夫でしたよ」との返事があったので、安心して座りました。また狭い会場ですと、隅の席を用意してもらい、犬が邪魔にならないよう気を遣わなければならないので、今回の会場は広くて大変よかったと思います」。

字幕が見やすい席を利用された、聴覚に障害のある野口さんは「私は身長が低いということもあり、席によっては前列の人の頭で前が見えないということがよくあるのですが、今回案内していただいた席は前の方で、しかも字幕も見やすかったのでとてもよかったです」と感想を述べた。

かんたん日本語字幕・英語字幕

かんたん日本語・英語字幕は、かんたんな日本語字幕と英語字幕を切り替えて表示できるタブレット端末と、マグネットで前の座席の背にタブレット端末を固定するための器具の貸し出しを行うサービス。耳が聞こえない方や聞こえにくい方、また知的障害や発達障害がある方で、音声で入ってくる情報よりも目から入ってくる情報の方が捉えやすく、尚且つ難しい漢字・表現が苦手な方などを対象としている。基本的には事前に予約する必要があるが、機器に余裕があれば当日でも利用可能となっている。これは音声補聴や音声ガイドでも同様だ。

今回の公演では役者のセリフはすべて英語なので、聴覚障害のない英語話者であれば英語字幕なしで理解できる。しかしながら英語話者で且つ聴覚障害のある方には英語字幕が必要になる。英語字幕はこのような方などに向けて準備されている。かんたん日本語字幕・英語字幕の準備を担当した株式会社リアライズの南部充央さんは事前取材にて「多様な人が参加するということを想定し、その人たちが鑑賞者であることをしっかり認識することが第一歩」と語ったが、取材を通して改めて本当に様々な利用者が想定されていると感じた。

音声補聴

音声補聴はヒアリングループ(磁気ループ)を使って、音を直接補聴レシーバーに届けるサービス。今回の公演では、補聴レシーバー(ネックループ)の貸し出しも行われた。補聴があれば音が聞こえやすくなる難聴者を対象としており、セリフや音楽といった舞台の音声の聞こえを補助する。

役者のセリフは英語なので、英語話者にとっては言葉の意味を理解することも目的の一つだが、英語話者以外はそれを目的に利用するわけではない。聴覚に障害のある氷室さんは、音声補聴を「今聞こえている音がセリフなのか音楽なのかを判別するために利用した」という。

「ヒアリングループを使って英語のセリフや音楽などを音声で聞き、同時に日本語の字幕を見ながら鑑賞しました。私の場合、音声補聴がなければ会場に鳴っている音が、役者のセリフなのか音楽なのか判別できません。音声補聴によってその判別がしやすくなりました。また猫の鳴き声など、字幕に表示されない音声がありましたが、それらが音声として耳に入ってきたのもとてもよかったと思います」。
 
このように利用する言語や、聞こえによっても使い方は異なる。

音声ガイド

音声ガイドは音声を聞くことができる機器の貸し出しを行うサービス。今回の公演では、日本語字幕吹替のみの音声、日本語字幕吹替に舞台上で何が起こっているかの説明が加わった音声の2チャンネルから選択することができた。主には視覚障害のある方や子どもを対象としている。子ども連れで来場された神保さん夫婦は「子どもが最初から最後まで音声ガイドを利用していました。最後まで寝ずに集中して観ていたので借りてよかったです」と感想を述べた。

日本語字幕吹替を制作したのは、これまでに数多くの映画・演劇などの音声ガイドを手掛けてきたシティー・ライツの平塚千穂子さん。ものがたりグループ☆ポランの会の彩木 香里さんが脚本原稿とナレーションを担当し、あらかじめリハーサル映像を見ながら10人の声優が吹き替えを行った音声が使用された。

様々な理由で音声ガイドを必要としている人がいて、さらに個人によっても求める情報量が異なるからこそ選べるようになっているという。「知的障害や発達障害のある方の中には、字幕が表示時間内に読み切れないという方もいます。そういった方にとっても音声ガイドは役立ちます」と企画の鈴木さんは言う。

当事者の生の声を聞く

筆者はゲネプロ(本番同様に舞台上で行う最終リハーサル)から取材したのだが、そこで印象的だったのは、視覚障害や聴覚障害のあるモニターに鑑賞サポートを体験してもらい、フィードバックをもらうというプロセスだった。例えばゲネプロ時の事前解説では、解説者が写真パネルを出すとほぼ同時にあらすじの解説を始めていたが、それに対して聴覚障害のあるモニターから「写真パネルを出してから解説するまでの間に、少し写真を見る時間がほしい」という意見が出た。耳で説明を聞きながら、同時に目で写真の情報を読み取ることができるのであればさほど気にならないかもしれないが、「写真パネルを見てから手話を見る」というふうに、視覚のみで情報を得る場合にはより十分な間をとる必要がある。このように様々なサポートが当事者の視点で調整されていた。

最後に鈴木さんに、これから鑑賞サポートの導入を行う制作者・企画者にとって大事な経験について伺った。

「一人ひとりの本当のニーズや生の声を聞く機会がある方が、より色々なことが想像できます。ぜひ様々な障害のある方と近い距離で一緒に何かをしてほしい。出会って、生の声を聞いて初めてわかることがたくさんありますし、それは鑑賞サポートを作るうえでとても大切です。聴覚障害のある方がみんな同じものを求めているかというとそうではない。字幕の量が多い方がいい人もいるし、そうじゃない人もいる。どういうふうにバランスをとっていくのがよいかは経験を積まないとわからないし、いつまでたっても100点は出ません。それは人間は多様で、多様なニーズを求められているからです」。

赤い布を皆で分合うというファマリー独自の演出にちなんで、帰り際スタッフから来場者に赤い布が手渡された。

文: 中本真生
写真: 冨田了平、西野正将

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True Colors Festival

歌や音楽、ダンスなど、私たちの身近にあるパフォーミングアーツ。

障害や性、世代、言語、国籍など、個性豊かなアーティストがまぜこぜになると何が起こるのか。

そのどきどきをアーティストも観客もいっしょになって楽しむのが、True Colors Festival(トゥルー・カラーズ・フェスティバル)です。

居心地の良い社会にむけて、まずは楽しむことから始めませんか。

諦めずに働きかけてみようかな?!

バリアフリー演劇結社ばっかりばっかり/ True Colors MUSICAL鑑賞者

美月めぐみ

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