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シンガポールで開催され、私が指揮を執った「True Colours Festival 2018」では、障害の有無に関わらず人とかかわるときに、“その人ができないことではなく、その人の能力や才能に目を向けながらその人自身と向き合うこと”の大切さを発信しました。「True Colors Festival 2020」では、よりメッセージの幅を広げ、人間らしさや受容をテーマにしています。ストリートダンス(DANCE)で幕を開け、即興の多楽器演奏(BEATS)やジャズライブ(JAZZ)、ACADEMYというスクール企画も進行中ですが、それぞれ異なる人々への発信をするなかで、こうしたジャンルの境や文化の間、関心の違いといったボーダーを崩して人々の交流を促す役割が果たされるといいですね。
多民族国家であるシンガポールと比較すると、単一民族国家としての側面もあるこの日本で、「多様性」「インクルージョン」といったテーマを考えることは、大きな良い変化に繋がると思います。アートを通じて多様性の美しさを見ることは、インクルーシブな社会づくりのスタート地点です。そこから、職場や学校など自分の活動しているコミュニティにいる障害のある人やLGBTの人への視点をもつことが普通のことになってほしいと思います。
シンガポールの人口の約半分は、シンガポールの市民権をもちません。市民権をもつ人のなかには、もたない人たちによって「自分たちの仕事や居場所が脅かされる」と思う人もいるでしょう。知らない他者に対する恐れはある意味で自然なものですが、だからこそ、異なるコミュニティとある意味強制的に接点をもつ、インタラクションすることが必要だと思います。強制的というのはもちろん力づくということではなく、例えばみんなで同じ映画やパフォーマンスを見て、それぞれ感じることは違っても感情的に高まって一緒に笑ったり泣いたり、そういう場を共有する機会をつくるということです。理解というものは一夜で得られるものではないけれど、私たちは違うこともあれば同じこともある、同じ人間だ、ということを知り得る機会ほどいいことはないと思います。
「True Colors Festival」は、2018年以前の名称がまだ今と違う頃から長い時間をかけて日本財団が行なっているプロジェクトですが、何か劇的な変化を起こすものというよりも、変化の「過程」をつくるものだと思っています。しかし、2020年以降、多様性やインクルージョンといったテーマに対する見方はだいぶ変わるでしょう。その変化はどんなものか、どう変化したのか、ということを私たちは実直に調べて見ていく必要があると思います。それを踏まえてさらにこうしたプロジェクトを推し進めていきたいですね。