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目の前にいる人を大切にするために ~True Colors アテンダント研修レポート

2019年9月22日。日本財団ビル会議室。聴覚障害のある方や大学で演劇を専攻する学生、NPO法人で活動している方、中国から日本の福祉を学びに来ている留学生など、様々なバックグランドを持つメンバーが集まった。

  • アテンダント研修の様子

彼らは「True Colors Festival」を誰もが楽しめる場にすることを目指し、アクセシビリティを高める環境づくりを担うボランティア「True Colors アテンダント」だ。2020年7月に開催する「True Colors CONCERT」までの約1年間、専門的なレクチャーや実践的な研修をしながら、経験を重ねていく。

なにかお手伝いできることはありますか?

9月28日。株式会社ミライロ 薄葉幸恵さんによる「ユニバーサルマナー検定」が行われた。幼少期にかかった肺炎の後遺症で、特発性の感音性難聴と診断され、30歳代半ばで聴力を失った薄葉さん。自身の経験を活かしながら、聴覚障害のある人との向き合い方を学ぶ研修を開発し、全国各地で活動している。

緊張の面持ちで座るアテンダントメンバー。それに気づいた薄葉さんは、緊張をほぐすように、ゆっくりとした速度で「ユニバーサルマナー」の定義を紹介した。

「自分とは違う誰かのことを思いやり、適切な理解のもとに行動すること。特別な知識や高度な技術は不要な、誰もが実践できる心遣い。それをユニバーサルマナーと名付けました」

日本の人口分布を調査すると、高齢者が約3559万人*1 、障害者が約936万人*2、3才未満が約290万人*3となっている。つまり約4割の人が日本社会に対して、なんらかの障害が生じやすい状態だと言える。更に言えば、これらの数字は国が認定している方の数であり、認定されていない方も含めるとそれ以上の数になることは想像に難しくない。

「なんらかの障害から生きづらさや痛みを抱えざるを得ない人は多くいます。だからこそ合理的配慮が必要であり、特別な1人のためではなく、みんなのためにユニバーサルマナーが必要なんです」

日本におけるユニバーサルマナーや合理的配慮という概念の理解や浸透は、まだまだ進んでいない。多くの人にとって必要なものであるにも関わらず、浸透が進まない理由はなんだろうか。

「障害がある人に対して、個人の関わり方が無関心と過剰に二極化しているのが要因の一つではないでしょうか。自分には関係がないと思っているままでは理解は進まない。

仮に関心を持っていても、障害のある人との接し方がわから”ない”、知識が’’ない’’、経験が’’ない’’など『~ない』からはじまる不安な気持ちが、サポートしたい気持ちにブレーキをかけ、行動に移しづらくさせている場合があります」

ブレーキをかけ続けると、心が磨耗し、関心を持つことに疲れ、無関心になってしまうこともある。サポートしたい気持ちから具体的な一歩を踏み出すには、どうすればいいのだろうか。

「サポートが必要な人が目の前にいる場合、自分自身になにができるか聞く姿勢が大切です。『なにかお手伝いできることはありますか?』と聞いてみてください。聞かれた側も答えやすい声かけです」

  • ユニバーサルマナー検定の様子

後半では、身体障害(肢体不自由、聴覚言語障害、視覚障害、内部障害など)や高齢者の特性、街で見かける障害者に関するマークの意味を学んでいった。ただ知識を得るのではなく、知った上でどのような困りごとが発生しやすいのかをグループになりディスカッションを行う。それによって、インプットとアウトプットを繰り返し、学びを定着させていった。最後には、ユニバーサルマナー検定3級の演習問題に取り組み、アテンダントメンバーは晴れて、資格を取得した。そんなメンバーに、薄葉さんはメッセージを贈る。

「誰かをサポートしたいとき、知識があっても、自信が持てず、行動をためらう場合があります。真面目で完璧を目指してしまうからこそ、失敗をしたくないと思ってしまう。100点を取ろうとしなくていいので、ひとまずお声がけしてみてほしい。相手が本当に困っているかどうかは、声をかけてみないとわかりません」

コミュニケーションをはじめて、相手のことを知っていく。それがユニバーサルマナーを体現するための第一歩。アテンダントメンバーが体現者となることで、周囲に変化が生まれ、ユニバーサルマナーの理解や浸透につながっていくのだろう。

多様性が言葉だけで終わらないように、目の前にいる人を大切にできるか

10月5日。2回目に行われたのは株式会社未来言語 代表取締役 永野将司さんと共同代表 菊永ふみさんによる「言葉に頼らないアテンド」講習だ。未来言語は、100BANCHに入居する4つのプロジェクトの代表が手を組んだ組織。100年先のコミュニケーションの創造を目指している彼らは、「今ある言語は不完全ではないか」という問いを掲げ活動している。

日本語が理解できないことで不利益を受けている外国人に対し教育を提供する株式会社NIHONGOの代表取締役でもある永野さん。彼は、日本在住の外国人のなかで日本語も英語も話せない人が多くいることを指摘し、特定の言語だけで世界とコミュニケーションすることへの違和感をメンバーに共有する。

永野「一口に言語と言っても、様々な形式があります。しかし、音声と文字がマジョリティで、それ以外の言語、たとえば手話や点字などを主な言語として使用している人は、『障害者』と呼ばれてしまっています」

  • 菊永ふみさんと永野将司さんの写真

手話をコミュニケーションツールとしたゲームを提供する『異言語Lab.』の代表でもある菊永さんは、ろう者・難聴者として、また福祉施設の児童指導員として働いてきた経験を振り返りながら次のように問いかける。

菊永「これまで聴覚障害のある人にとって、音声言語を話せることは、いいこととされてきました。しかし、聴者のコミュニケーションに一方的に適応していくことは、本当に望ましいことなのでしょうか。視覚言語である手話も、音声言語と対等であるはずです」

私たちは、気づかないうちに、自分本位の言語を使っている。それはときに障害を生じさせ、他者の生きづらさを生み出してしまう。これらを自覚することが、多様な人との共存を可能にする一歩なのだろう。

  • アテンダント研修の様子

後半には、「言語の壁を超えるためになにができるのか」をテーマにアテンダントメンバーを含めた全員でシンポジウムを開催した。それぞれが率直に意見を交わし、コミュニケーションの定義や、自分と相手の価値観が違うことの面倒くささはどう乗り越えるのかというテーマにまで話が及んだ。

永野「たとえば、他者と使う言葉が違って伝わらない場合、伝わらないことを楽しめたらいい。『面倒くさい』と感じている時は、自分が望む予定調和のコミュニケーションを無意識に期待している可能性があります。予定調和を望むのではなく、新しい気づきに出会えるかもしれない機会と考えてみるのがいいのでは?」

ディスカッションが進むなかで、この講習のアクセシビリティについて、菊永さんから疑問が投げ掛けられる一幕もあった。

菊永「この場には、手話通訳者がいます。それは配慮としては、ありがたいことです。しかし、それだけで満足してしまうのは危うい。ろう者・難聴者で、手話を使える人たちは約2割しかいないと言われています。そのことを理解した上で、環境をデザインしていく必要があるんです。アクセシビリティ向上を謳うのであれば、こういった知識や視点を持ち続けられるかどうかが重要です」

1つ知識や視点を得たからと言って、そこで思考停止してしまうと、途端に型通りのコミュニケーションや場づくりに向かっていく。知識を学び、考え、行動し続け、変化を恐れないことが何よりも大切なのだろう。

菊永「このフェスティバルが多様性を大事にしていると掲げていても、人と人との繋がりが大事にできないと、言葉だけになってしまいます。目の前にいる人が一人にならない情報の渡し方やおもてなしが必要です。目の前の人との違いを味わいながら、楽しんでください」

言葉に頼らないアテンダント。それは、言葉を使わないのではなく、自身が疑わずに行っているコミュニケーション方法を再考しながら、相手との適切な形を模索していくことなのだ。

フェスティバルのアクセシビリティ向上
ひいては、日常生活においても生きやすい社会へ

2回の講習が終わり、懇親会に参加したメンバーの何人かに話を伺った。聴覚障害の当事者であるemiさんは、講習から感じたことを次のように語る。「お互いが心地よいコミュニケーション方法を模索していきたいです。そのためには、素直に自分の気持ちを伝えて、相手に合わせるのではなく、お互いに歩み寄ること姿勢を大切にしたい」

  • アテンダント研修に参加したメンバーの写真

  • アテンダント研修に参加したメンバーの写真

2年近く前に中国から来日したケーさんは、自身の語学レベルについて触れながら率直に感想を伝えてくれた。「私は、日本語が得意ではなくて、もどかしい気持ちになることがありました。サポートが必要な人を見つけても、うまく話せないから、そのままにしてしまった。でも講習で知った声かけである『なにか手伝えることありますか?』を知って、行動しやすくなったと感じています」

  • 懇親会の様子

2020年7月のTrue Colors CONCERTに向けて、続いていくこのプログラム。多様な人たちが共存していくための知識を得るだけではなく、実際に思考し自分なりの想像力を働かせる機会になっている。講習を糧にしながら、アテンダント・デビューに向けて、更に活動を続けていく。この取り組みの積み重ねがTrue Colors CONCERTのアクセシビリティ向上だけではなく、日常生活においても多様な人が生きやすい社会づくりにつながっていくのではないだろうか。

Text: kazuhiro kimura
Photo: Ayako Nishibori

*1
総務省「人口推計」(平成30年)より
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html

*2内閣府平成30年版障害者白書 障害者の状況より
https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h30hakusho/zenbun/siryo_02.html

*3総務省「人口推計」(平成30年)より
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html

ユニバーサルマナー検定について:https://www.universal-manners.jp

未来言語について:https://miraigengo.net/

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True Colors Festival

歌や音楽、ダンスなど、私たちの身近にあるパフォーミングアーツ。

障害や性、世代、言語、国籍など、個性豊かなアーティストがまぜこぜになると何が起こるのか。

そのどきどきをアーティストも観客もいっしょになって楽しむのが、True Colors Festival(トゥルー・カラーズ・フェスティバル)です。

居心地の良い社会にむけて、まずは楽しむことから始めませんか。

大陸を超えて”ホンク”が行く!

True Colors Festival シンガポールPR Team

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