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「True Colors Festival」開幕前夜――多国籍ダンスユニット『イルアビリティーズ』によるワークショップを国内初開催

「限界って本当にないんですね」

9月8日、11時。東京・代々木のスタジオ。大勢の子どもたちが待つ中に「ILL-Abilities(イルアビリティーズ)」が登場すると、スタジオは拍手に包まれた。

イルアビリティーズは、多国籍からなる障害者ダンサーで構成されるブレイクダンス・ユニット。創設者の“Lazylegz(レイジーレッグス)”こと、ルカ・パトエリをはじめとした7名のチームは、世界各国のダンスシーンで活躍している。それぞれが異なる障害の当事者だが、ダンス経験は豊富。身体の特徴を生かした創造性と躍動感に溢れる動きが身上だ。チームのポリシーは「No Excuses,No Limits(言い訳なし、限界なし)」。人生の可能性を追求するという決意が込められている。

  • 子どもたちにダンスの基本動作をレクチャーしている様子

  • ルカ・パトエリの写真

メンバーの自己紹介が済むと、早速ワークショップが始まった。円になり、イルアビリティーズがダンスの基本動作をレクチャーしていく。「トップロック」、「スピン」、そして体の動きを数秒間止める「フリーズ」。ダンス経験のある参加者もおり、徐々に加熱するスタジオ。見つめる家族も笑顔だ。最後は「サイファー」と呼ばれる円陣を組み、中央で各々が代わる代わるダンスを披露した。

  • 子ども向けワークショップの様子

  • 子ども向けワークショップの様子

鳴り響く音楽に乗って、参加者のカズマさんも円の中に飛び込んだ。ダウン症のカズマさんは、ダンススクールの友達と一緒に参加したという。「面白かった。ダンスが楽しかった」。カズマさんはそうワークショップを振り返ってくれた。

お母さんによれば「3歳11ヶ月まで歩けなかった」というが、音楽を聞くと身体を横に揺らしてリズムをとっていた。「ダンスは絶対好きになる」。そんな母の思いもあり、1年半前からダンススクールに通うようになった。

「情報を受取る能力が低いので、言われてすぐに対応するのが難しいんですが、音楽と一緒に目で見て真似をするのは大好き。イルアビリティーズのダンスにカズマは凄く刺激を受けたと思います。限界って本当にないんですね」

  • ワークショップの集合写真

全盲のパントマイマーも参加

午後の大人向けワークショップでは、ダンス経験者が参加した。ダウン症当事者によるエンターテインメントチーム「LOVE JUNX」のメンバーや、リオ2016パラリンピック閉会式にて東京への引き継ぎセレモニーのパフォーマーを務めた神原健太さんの姿もある。後にルカに聞くと「参加者のレベルが非常に高いことに気づき、ワークショップの方向性を変えた」という。

最後は「サイファー」で締める構成は午前の部と変わらないが、ダンス動作のレクチャーだけでなく、各々が講師となってアクションを見せあったり、イルアビリティーズのメンバーが個別に動きを見たり。ルカの言葉どおり、参加者に合わせてプログラムにアレンジが加えられていた。

  • 大人向けワークショップの様子

  • 大人向けワークショップの様子

参加者の金子聡さんは全盲で、普段は盲導犬と生活している。「身体表現をずっとやってみたかった」と言う金子さん。さまざまなダンス教室の門を叩くが、全盲であることを理由に断られ続け、たどり着いたのが「パントマイム」だった。

しかしこの日のレクチャーでは一苦労あったようだ。視覚的な動きの確認ができないため、言葉やボディタッチで、ブレイクダンスの動作を再現。イルアビリティーズのメンバー、オランダ出身の“Redo(リドゥー)”(レドゥアン・アイト・チット)らが金子さんに付き添った。

「目の見えない人が僕だけだったので、彼ら(イルアビリティーズ)もどう伝えればいいか戸惑いもあったかもしれません。でも、『何でもアリだよ』と声をかけてくれたので、恥ずかしがらずにできました」

  • 金子さんの盲導犬

  • 金子さんがパントマイムを披露している様子

視覚障害者と身体表現

金子さんによれば視覚に障害がある人にとって、ダンスのようなパフォーミングアーツはまだハードルが高いという。それは“ダンスをする場”へのアクセスの課題にとどまらない。

「関心があっても、パフォーマーとして活動している当事者は少ない。いろいろな社会参加の形がある中で、ダンスのような芸術活動については、視覚障害者についてはちょっと遅れている感じがします。盲学校に通っているような若い人は、今回来ていれば絶対に楽しめたと思います」

イルアビリティーズは、視覚に障害がある人とワークショップをする時、どうしているのか。ルカに尋ねた。

「これまでも視覚に障害のある人と一緒にワークショップをしたことがあって、その時はゆっくり丁寧に作業をした。でも今回は通訳というプロセスがあって、それでいて全体的なフローを意識しながら運営したから難しい状況が時々あったと思う。同じようなワークショップをする人にアドバイスをするとしたら、見えない人にワークショップの流れやダンスの動きについて専属でレクチャーする人をつけるということだね。

それから大切なことは、講師自身の身体的な説明も忘れないこと。今日は自己紹介の時に僕がどういう見た目でどんな体つきをしているのかを意識して伝えた。それは、僕らがレクチャーする動きを、 彼(金子さん)がイメージしやすくするためでもあったんだ」

最後のサイファーでは、神原健太さんによる、ダイナミックかつ流麗さが漂う舞いや、「LOVE JUNX」のメンバーによる激しいブレイクダンスがミックスされた。金子さんもパントマイムの動きを存分に生かした独自のダンスを披露。盛り上げに一役買った。『True Colors Festival』開幕前夜のセッションは、熱量に溢れていた。

  • 「LOVE JUNX」のメンバーによる激しいブレイクダンス

Text: Naoto Yoshida
Photo: Masanobu Nishino

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True Colors Festival

歌や音楽、ダンスなど、私たちの身近にあるパフォーミングアーツ。

障害や性、世代、言語、国籍など、個性豊かなアーティストがまぜこぜになると何が起こるのか。

そのどきどきをアーティストも観客もいっしょになって楽しむのが、True Colors Festival(トゥルー・カラーズ・フェスティバル)です。

居心地の良い社会にむけて、まずは楽しむことから始めませんか。

「あれなんだろう?」がきっかけに

SOCIAL WORKEEERZ、障がい者支援/ True Colors DANCE出演者

進藤あかね

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